トヨタ自動車のパワートレーンカンパニーが、ITで人事業務を改革する「HRテック」に力を入れている。機械学習や自然言語処理の技術を活用して新入社員の最適な配置を狙う。エコカーが普及し、クルマ作りに求められる技術は多様化している。適材適所のアサインにより、会社の将来を担う若手が持てる力を最大限に発揮できるようにする考えだ。
技術系の新入社員が大学などで培った専門知識を生かせて、各部署のニーズも満たす配置計画を作る――。トヨタ自動車の社内カンパニーであるパワートレーンカンパニーはこうした課題の解決にHRテックを導入した。HRテックとは人事(ヒューマンリソース、HR)関連の業務改善につながるデジタル技術や改善の取り組みを指す。
同カンパニーは約50の部署からなり、エンジンやトランスミッション、ハイブリッドシステムなどの企画・開発、製造などを担う。同カンパニーは2018年4月、技術系新入社員の最適な配置先を導出するシステムを使い始めた。自然言語処理の技術を使って配置案のたたき台を自動作成する。
エコカーの推進で見極めが難しく
トヨタ自動車は技術系の新入社員を年600人ほど採用している。パワートレーンカンパニーに配属となるのは4分の1の150人前後だが、同カンパニーの人事担当者は600人全員を対象に、同カンパニー内の最適な配置先を検討する。検討段階では新人の配属先のカンパニーが決まっていないためだ。
これまで同カンパニーの人事担当者は600人に関する書類を1人分ずつ読み込んで、適切な部署を見極めていた。確認すべき内容は出身校や専攻、論文のテーマ、研究内容といった経歴に加え、入社後に記述してもらった志望部署の情報など多岐にわたる。これらから同カンパニーへの適性を確認したうえで、各部署の管理職と相談しながら配置案を仕上げていた。
配置案作りには幅広い専門知識が求められる。というのも、従来同カンパニーに配置されるのは機械工学を専攻した人材が中心だった。だが最近は、例えば電子工学や化学などに強い新入社員も増やしている。トヨタ自動車が「プリウス」などのハイブリッド車や燃料電池車「MIRAI」といったエコカーにも力を入れているためだ。
同カンパニーで新入社員の配置案作りに携わる人事担当者は多くが機械系のエンジニアでもある。エンジンの設計や鋳造といった分野は詳しいが、燃料電池など担当外の文書も確認しなければならない。「新入社員の専門分野は多岐にわたるため、目利きが難しい」と芳賀宏行パワートレーン統括部PT管理室グループ長は話す。

しかも配置に割けるのは数週間と短い。人事担当者は配置案を作成するだけでなく、新入社員と面談をしたり、配置案を参考に他のカンパニーと調整したりする必要もある。同カンパニーの原田岳FC基盤開発部CAE2Gグループ長は「多くの時間を要する配置案の作成を効率的にできないか検討していた」と振り返る。
