DXに取り組む企業を中心として「デジタルアダプション」ツールの導入が相次いでいる。業務システムなどに組み込むことで使いやすさを高められるのに加え、利用状況を把握して効果測定やユーザビリティーの改善につなげられる。DXを下支えするツールとして期待されている。5社の事例を通して、具体的な機能や導入・運用の実際、導入効果に迫る。
竹中工務店は長期経営ビジョンの「2030年にありたい姿」に基づき、全社でDX(デジタル変革)を推進している。その一環で2022年4月、大幅に改定した新人事制度と新人事統合システムの運用を始めた。人事関連システムについてはほかにも、通勤費精算や勤怠管理などのシステムを先行して改変した。
社員にとっては人事制度とシステムの両方が同時に変わる。そのため、手続きの間違いや操作ミスなどの混乱を招きかねない。
そこで竹中工務店が講じた施策は、システムの使い勝手を高める「デジタルアダプションツール」の導入だった。新人事統合システムを含む人事関連システムのカットオーバーに合わせて、2021年11月から順次、人事関連の新システムに米ウオークミーのデジタルアダプションツール「WalkMe」を導入した。竹中工務店の串崎修人事室制度企画運用グループ長は「新システムの使い勝手を大きく高められた」と効果を話す。
システムの使い勝手を高める
竹中工務店をはじめデジタルアダプションツールを導入する企業が相次いでいる。同ツールはシステムの使い勝手を高めて、利用者が最初から適切に使いこなせるようにするものだ。前出のWalkMe以外にも、STANDS(東京・中央)の「Onboarding」、テックタッチ(東京・港)の「テックタッチ」、米ペンドの「Pendo」などがある。
デジタルアダプションツールの多くは共通して、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を含む様々なアプリケーションの画面上に操作ガイドを表示したり、ガイドをどれだけの利用者が使ったのかを可視化したりする機能などを備える。このうち操作ガイドについては、システムの主要機能を素早く起動できるようボタンを配置したランチャー機能や、「案件登録」「案件修正」「案件削除」のような一連の操作ごとに誘導する機能などがある。
デジタルアダプションツールは社内向けシステムと社外向けシステムの両方に適用できる。導入が先行しているのは社内向けシステムだ。
ガートナージャパンの針生恵理リサーチ&アドバイザリ部門シニアプリンシパルアナリストは社内システムへの導入の目的を大きく3つ挙げる。1つめは、利用者がシステムを使いこなせるようになるまでの「ダウンタイム」を減らすこと。2つめは、利用者からシステム管理者への問い合わせを減らし管理者の負担を軽減することだ。
これらの背景にはSaaSの導入増加がある。一般にSaaSは、導入企業が個別にUI(ユーザーインターフェース)を変更しようとしても制限が大きい。そこで使い勝手を高めるために、デジタルアダプションツールを導入するわけだ。
社内向けシステムへ導入する目的の3つめは、利用者のアクション(操作)を可視化して、システム管理者が利用者のニーズを把握することである。画面に表示した操作ガイドごとにそれを使った利用者数を集計し、ガイドの文面や表示方法の改善に役立てる。
デジタルアダプションツールの導入企業が増えているのはこうした利点があるためだ。それは調査の数字にも裏打ちされる。ガートナージャパンが2022年4月に実施した、国内308社を対象としたデジタルアダプションツールの導入調査結果では「導入している」と回答した企業が12.3%に上った。さらに22.7%が「導入を予定している」、31.4%が「導入に関心あり」と回答し、全体の6割以上の企業が導入済みまたは前向きな姿勢だった。
針生シニアプリンシパルアナリストは「DXを推進する前提として、利用者が様々な新システムを使いこなす必要が生じている」と指摘する。さらに、社内・社外向けシステムにSaaSを活用する企業が増えたり、新型コロナ禍によって集合研修を開きにくくなったりした状況が背景にある。
デジタルアダプションツールの導入と効果は、実際にどのようなものか。以下で、社内向けシステムに導入した竹中工務店、オリンパス、大和ハウス工業の3社の事例と、社外向けシステムに用いたリクルートおよび、中堅・中小の顧客企業に対してマーケティング関連のITサービスを提供するSO Technologies(東京・文京)の2社の事例を順に見ていこう。