日本発の内視鏡手術支援ロボットの実用化が近づいている。世界の内視鏡手術支援ロボの市場は「ダビンチ」がほぼ独占状態だ。国内企業は独自の技術とコンセプトで差異化を図る。日本を含む世界でロボットを利用した内視鏡手術数が増えている。日本企業はどこまで日本の、そして世界の市場に食い込めるか。
「2020年に手術支援ロボットを発売したい。その先にはロボットを基盤にした手術プラットフォームの構築を目指す」――。内視鏡手術支援ロボットを開発する日本のベンチャー企業、メディカロイドの田中博文常務はそう意気込む。同社は産業用ロボット大手の川崎重工業と医療機器を手掛けるシスメックスが共同出資して2013年に誕生した。
日本を含めた世界の内視鏡手術支援ロボットの市場は、米Intuitive Surgicalの「da Vinci(ダビンチ)Surgical System」がほぼ独占状態だ。2019年9月時点で世界では5406台、日本で約350台が病院に導入されている。
他に内視鏡手術支援ロボットを開発している日本の企業の例としてはリバーフィールドやA-Tractionがあるが、日本企業として初めて内視鏡手術支援ロボットを市場投入するのはメディカロイドになりそうだ。
米国では80%でロボット利用
内視鏡手術は、患者の腹に直径数ミリメートルの穴を数カ所開けて実施する。医師は内視鏡のほか、組織を挟むための棒状の手術器具を各穴に挿入し、内視鏡の映像を見ながら手術していく。医師のうち、助手(スコピスト)が内視鏡を動かして術野を映し、執刀医が手術器具を動かし組織を切ったり縫合したりする。
ダビンチは人間の代わりにロボットアームが内視鏡や手術器具を支える。執刀医は専用の機器に座り、内視鏡で映し出される患者の体内の映像を見ながら手元のコントローラーで手術器具を動かし手術する。
ダビンチの使用実績の多い藤田医科大学病院総合消化器外科の宇山一朗教授によると「内視鏡手術の安全性と精度を高めるためにダビンチを利用している。手の震えが手術器具に伝わらないので操作がぶれない。執刀医の緊張もほぐれる」という。
内視鏡手術は小さい穴に入れた器具を操作するなど細かい手技を必要とするため、医師の技量の差が出やすいと言われている。「トレーニングした上でダビンチを利用すれば執刀医の技量の差が埋まり、手術の質の均一化が期待できる。今後内視鏡手術は内視鏡手術支援ロボットを利用する手術に置き換わっていくだろう」と宇山教授は展望する。ダビンチを販売するIntuitive Surgicalによると2013年に米国で行われた前立腺摘出術のうち80%はロボットを利用したという。