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2021年12月期に売上高4000億円台を4年ぶりに達成し、営業損益は前期の赤字から一転、219億円の黒字に――。大手スポーツメーカー、アシックスのV字回復を下支えしたのが、近年力を入れてきた数々のデジタル関連施策だ。アシックスが矢継ぎ早に打ち出し、駆け抜けてきた世界規模のデジタルトランスフォーメーション(DX)の軌跡を追う。

 接戦が繰り広げられた前回と一変し、青山学院大学が圧勝で強さを印象づけた2022年1月の第98回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)。選手たちが履くシューズにも確かな変化が見られた。前年は米ナイキの厚底シューズが席巻し、9割超のランナーが採用。日本勢の筆頭格であるアシックスは惨敗した。今回もナイキがなお優勢だが、アシックス製シューズを採用した選手も20数人いた。アシックスが攻勢に転じたことを印象づけた。

 そのアシックスは経営でも反転攻勢のさなかにある。2021年12月期の売上高は4040億円と、2017年12月期以来の4000億円台を回復。営業損益も新型コロナウイルス禍の直撃で赤字に陥った前期から一転して219億円の黒字を達成し、5年ぶりの水準でV字回復を印象づけた。

図 アシックスの売上高・営業利益の推移
図 アシックスの売上高・営業利益の推移
2021年12月期にV字回復、一転黒字に(出所:アシックスの資料を基に日経コンピュータ作成)
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(写真提供:アシックス)
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 東京五輪などを想定して2021年に発売したトップランナー向けのレーシングシューズ「METASPEED(メタスピード)」シリーズが話題を集めるなど、主力のランニング事業が売上高前期比31%増と好調だったことが奏功した。ただし、復活の原動力は商品力だけではない。近年力を入れてきた、顧客との関係づくりやマスターデータ基盤の整備といったデジタル関連の施策も実を結び、業績を下支えした。

図 アシックスの主なデジタル/IT関連の施策
図 アシックスの主なデジタル/IT関連の施策
経営・事業にデジタルを積極的に取り入れてきた(写真提供:アシックス)
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