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自治体が保有する住民データ、医療機関が保有する診療情報といったプライバシー性の高い公共・準公共データの活用が進んでいる。しかし、民間企業の利益を念頭に置いたデータ活用との線引きは難しい。2023年4月の改正個人情報保護法に向けたデータガバナンスやデータ収集・加工などパーソナルデータ活用にまつわる課題を医療、子どもの安全、防災の3分野で整理する。

(写真:Getty Images)
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 データを活用して住民向け行政サービスの利便性を向上させる――。そんな目的のため、福島県会津若松市が取り組むのが、市の保有する住民データを住民本人に還元する試みだ。

 会津若松市は2023年2月28日、市が保有する住民データを、行政手続きの申請時などに住民本人が窓口に来庁せずインターネット経由で利用できるようにした。転出や転居の手続きで必要となる世帯情報を、市保有データを参照して自動入力できる。

 具体的には、オンラインから手続きをするための「手続きナビシステム」の専用Webサイトから案内に従って選択や入力をする。マイナンバーカードを使って本人確認や基本4情報(氏名、性別、住所、生年月日)の入力をするほか、申請者本人の同意の上で、市が保有している住民データを参照し、申請者の世帯全員の基本4情報を自動入力する。

 同市では、行政手続きなどで自身の住民データを活用するかどうかあらかじめ本人に同意(オプトイン)を得た上で、本人から申請があった際に、そのオプトインの情報を参照する。同意が得られていれば、自治体保有データの中から必要な情報のみを、専用Webサイトを通じて本人に返す仕組みを構築した。市が保有する住民データを本人が活用するに当たり、システム設計で気を付けたのは「本人同意を取ること」(会津若松市役所企画政策部情報統計課の伊藤文徳主幹)だったという。

 今後、会津若松市はこの住民本人の同意に基づき、同市が保有する住民データを利用する仕組みを、民間企業のサービスでも活用していく方針だ。具体的には、会津若松市のスマートシティープロジェクトを手掛ける一般社団法人スーパーシティAiCTコンソーシアムの参加企業と利用サービスの検討を進めている。

「一次・二次利用の切り分け重要」

 会津若松市で進む住民データ活用では、あくまでも本人の利便性向上を目的とし、本人以外は利用できない仕組みになっている。一方で民間企業にとっては、公共・準公共分野のデータを経済的価値につなげるために、多数の個人情報を統計的に分析して事業に活用したいという動機もある。

 東京大学大学院法学政治学研究科の宍戸常寿教授は、公共・準公共分野のデータ活用で先行する医療分野の経緯を参考に「『一次利用』と『二次利用』の切り分けが重要だ」と話す。宍戸教授は政府の健康・医療戦略推進本部健康・医療データ利活用基盤協議会構成員のほか、次世代医療基盤法検討ワーキンググループ座長などを務める。

 一次利用と二次利用の違いはこうだ。本人のデータを活用することで、自治体の住民サービスの使い勝手が良くなるほか、患者がより良い治療を受けられるようになるなどして、本人にとってメリットがある。こうしたデータ主体である本人のためのデータ活用は「一次利用」と呼ばれる。

 これに対し、データ主体の本人が直接便益を受けるわけではないが、社会のためになったり間接的に本人が便益を受けられたりする可能性があるデータ活用は「二次利用」と呼ばれる。例えば診療情報のデータベースを基に新薬の研究開発や承認申請に生かすといったことだ。

表 データ主体である本人の便益のための一次利用と、社会のための二次利用の分類
一次利用と二次利用を分けた整理が始まっている
表 データ主体である本人の便益のための一次利用と、社会のための二次利用の分類
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