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米フェイスブックがメタプラットフォームズに社名変更するなど、世界各国の企業がこぞってメタバースに力を入れている。そもそもメタバースとはどんなものか、要素技術やビジネスモデルはどのようなものか、どの程度の将来性が見込め、普及に向けての課題は何なのか。メタバースにまつわる10の疑問を基に、メタバースの真価を解き明かす。

(画像提供:クラスター(左上)、HIKKY(右上)、米マイクロソフト(左下)、KDDI(右下)、(C)青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996(右下)、背景:Getty Images)
(画像提供:クラスター(左上)、HIKKY(右上)、米マイクロソフト(左下)、KDDI(右下)、(C)青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996(右下)、背景:Getty Images)
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疑問 1
そもそもメタバースとは?

 「メタバース」と一言に述べても、その意味は様々だ。KPMGコンサルティングのヒョン・バロTechnology Media&Telecomディレクターは「メタバースはこれから発展する世界。現時点で誰かが定義を決めても今後どうなるか分からず、固く決める必要はない」と話す。

 とはいえ、ビジネスでの活用が進むメタバースについて議論するとき、相手がメタバースをどう捉えているかを知る必要はある。メタバースのプラットフォーム「cluster」を提供するクラスターの加藤直人CEO(最高経営責任者)は「メタバースの視点は4類型に分類できる」と説明する。相手の話す「メタバース」がどの視点に属するかを考えることがすれ違い防止に役立つ。

図 メタバースの定義の4類型
図 メタバースの定義の4類型
話し手により異なる「メタバースとは?」(出所:クラスターの加藤直人CEOなどへの取材に基づき日経コンピュータ作成)
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 1つめは「人類の夢の暮らしを表す世界」だ。米国の小説家ニール・スティーヴンスンがSF小説「スノウ・クラッシュ」に描いたような、コンピューター上の世界に実体としての人間が入り込んでいくものだ。これはまだ実現されておらず、「メタバースの世界はまだまだ来ない」と話す人にとってのメタバースはここに属する。

 2つめは、「3次元CG(コンピューターグラフィックス)の技術を使って実装された仮想空間」だ。CGの世界の中で利用者がアバターとなって行動できる仮想の3次元空間で、既に実現されている。米リンデン・ラボの「Second Life」や任天堂の「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」を指して「メタバースはずっと前から存在している」と話す人の視点はここに属する。

 3つめは、「自社ビジネスを仮想空間内でどう発展させるか」を考える役割の人にとってのメタバースだ。例えばゲーム業界ではビジネスの発展に向け、メタバースを活用してゲームを嗜好品から「生活必需品」に変えようとし、SNS(交流サイト)もメタバースで利用者の滞在時間を増やそうとする。

 4つめは、仮想空間内のクリエーターエコノミーの議論など、消費活動の視点だ。これまでの消費活動はEC(電子商取引)サイトのように物理的に存在する商品のやり取りを「主」とし、「従」としてデジタルが支えるという物質に依存したスタイルだった。Second Lifeにもゲーム内通貨「リンデンドル」が存在したが、当時は仮想空間内の経済圏形成が不十分だった。

 現代のメタバースでは暗号資産(仮想通貨)などを介し、仮想アイテムだけでなく、物理商品の購入、ゲームやバーチャル観光、仮想空間内の不動産売買まで様々な経済活動が発生する。デジタルの取引が「主」、リアルの商品の取引が「従」に向かいつつある。

疑問 2
なぜ急にブーム到来?

 仮想空間としてのメタバースはゲームの世界では既に成立していたが、近年はB to B(企業間取引)領域での盛り上がりが目立つ。2021年10月に米フェイスブックがメタプラットフォームズへ社名変更し、盛り上がりを後押しした。米マイクロソフトや日本企業も続々とメタバースへ注力する。

図 メタプラットフォームズとマイクロソフトのメタバース関連事業
図 メタプラットフォームズとマイクロソフトのメタバース関連事業
GAFAMでは2社が先行(画像提供:米メタプラットフォームズ(左2点)、日本マイクロソフト(右2点))
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 利用者側の受容態勢が整ってきたことも大きい。新型コロナウイルス禍に多くの人が、業務上の日常的なコミュニケーションなどがオンラインに移行する経験をした。ビジネスでもオンラインへの抵抗感が薄れ、今まで遠い存在だった「仮想空間」での活動に具体的なイメージを持ちやすくなった。