日本に古くからある伝統的な業種で、デジタルを使い事業を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)で躍進する企業が増えている。各社は新型コロナウイルス感染症の逆風の中、どこからDXに着手し、どう難所を乗り越えてDXを実現させたのか。複数の成功企業の事例を基に、伝統産業のデジタル変革の勘所を探る。
住宅環境の変化により市場縮小が続く畳業界において、自社のできる範囲でDXを駆使して畳販売ビジネスを拡大させている企業がある。大阪市に本社を持つTATAMISER(タタミゼ)だ。畳は1枚1万円ほどの価格帯で、2015年創業以来の累計販売枚数が2020年6月で6万枚を超えた。コロナ禍でも海外への販売を伸ばしており、「2020年度の海外売上高は2019年度の2倍のペースで伸びている」(TATAMISERの淡路光彦社長)。
TATAMISERの特徴は、ネットで畳の注文を受け、その家に合った形やサイズの畳を作製して販売することだ。色や柄はそれぞれ数十種類から選べるほか、素材もイグサだけでなく和紙素材や樹脂製などから選択できる。「長方形でなく斜めでも、穴が開いた形でもオーダーメードで作製している」(淡路社長)
海外EC、言語の壁を越える工夫
2015年に創業してしばらくは順調に事業を展開していたが、ホームセンターで販売される安価な畳などの影響もあり、徐々に売り上げの維持が難しくなっていた。
転機が訪れたのは2016~17年ごろ。新たな収益の柱を考える中で、中小企業基盤整備機構の支援事業としてシンガポールやニューヨークで自社製品を展示する機会を得た。以来、自社製品の販売サイトへ海外からの注文が徐々に舞い込むようになった。
当時、淡路社長が驚いたのは注文単価だった。日本で1万円ほどの畳であっても、送料や関税などを含めると海外向けの価格は3万円ほどになる。それでも平気で数十万円分の畳を買う顧客がいたのだ。淡路社長はこのとき「海外販売に可能性を感じた」という。
とはいえ、海外向けEC(電子商取引)サイトを用意すればすぐに成功するほど簡単ではない。TATAMISERなりのDXが成功の秘訣になっている。その一つが英語などの「言葉の壁を越える」工夫だ。英語はあまり得意ではないという淡路社長だが、言葉の壁が販売のネックにならないようにした。
まず英語で会話をしなくて済むよう、海外からの注文は自社サイトで受ける。問い合わせや細かいやり取りもメールを使う。文面は無料の翻訳サイトや、複雑な場合は有料のクラウド翻訳サービスを使い日本語にしている。「何度か有料の翻訳サービスを使ううちに英語文面のサンプルが増え、最近は自力で対応できている」(淡路社長)
商品説明は英語でシンプルに短く説明し、サイトでは部屋に畳を敷いた状況をイメージしやすいよう、施工例の写真を数多く配置している。最近は顧客が送ってくれる自慢の和室の写真を、許可を得て「Instagram」や「Pinterest」などの画像系SNS(交流サイト)に掲載して情報発信している。
最近ではドバイから複数の見積もり依頼があるなど、海外の売上比率は年々増加。2020年度は売り上げの30%以上が海外からの注文になった。
TATAMISERの海外販売の好調ぶりは、IT活用だけが理由ではない。数人の社員で時間と費用をかけず事業展開すべく、実務のムダやムラを徹底的に排除した点もポイントだ。
例えば同社は電話での注文受け付けもしているが、外部委託したコールセンターでいったん対応してもらい、後で折り返すようにしている。天然のイグサの香りを知らない海外顧客向けに、イグサで作製した畳は独特の香りがすることや、購入前にサンプルで香りを確認できることをECサイトに明記。こうした海外向けのノウハウを駆使し、購入後の返品などを未然に防ぐ。
社内で使う業務システムは、米クラリスインターナショナルのデータベースソフト「Claris FileMaker」で自作している。自社オフィスもインキュベーション施設を借りるなどコスト削減に余念がない。ITとコスト削減の両輪が同社の成長を支えている。