土日に加えてもう1日休みの週休3日制を採用する企業が目立ち始めた。土曜日は午前出社の「半ドン」時代を知る人からすれば、まさに隔世の感だ。週休2日になじんだ若手や中堅にとっても夢のようだろう。成果が下がると思いきや、生産性向上や離職防止などの成果を得つつある。通勤時間が減り、子育ての時間を増やせる点で新型コロナにも威力を発揮。先行導入したヤフーや日本マイクロソフトなどの取り組みを追う。
土日のほか毎週水曜日は休み、1週間の労働時間は32時間――。そんな週休3日制を創業時から導入しているのが無人コンビニ事業を運営するベンチャー企業の600(ろっぴゃく)だ。
同社はオフィスやマンションなどの共用スペースに商品を入れたケースを設置。顧客が欲しい商品をケースから取り出すと、商品に付いたICタグをセンサーが検知して会計し、顧客はケースに付いたクレジットカード読み取り端末で決済する。
600の勤務時間は午前9時から午後6時まで。休憩時間を除くと1日8時間、週4日で32時間と少ないが、給与水準は低くはない。600が週休3日制を選んだきっかけは、同社の久保渓社長の家庭の事情だった。ほぼ1人でサービス準備に取り組んでいた時期に家族が一時的に体調を崩した。看病しながら社長業をするために、週休を3日にすることを決断。土日に加えて水曜日を休みとした。
きっかけはやむを得ない事情だったが「休日の水曜日をはさんで2日単位で働くようにすると、集中力が高まって効率が良いと分かった」(久保社長)。事業は順調に立ち上がり、約20人の社員を抱えるまでになったが、週休3日制を継続している。
休みを金曜日ではなく週中の水曜日に置いているのがポイントだ。通常なら月曜日は「まだ金曜日まで日数がある」という意識になりがちだが、600の社員には「月曜と火曜の2日間で仕事を片付けなければならない」という意識が働く。2日単位の営業日に合わせて、日報ではなく「隔日報(かくにっぽう)」制度を設けた。久保社長や社員らは、2日ごとに「何をどこまでやったか」を入力して社内ネット上で共有する。隔日報の入力は義務ではないが、意識付けの手段として定着したという。
意思決定プロセスを厳格に
少ない勤務時間で集中して働いて成果を出すため、600は様々な工夫を凝らしている。その1つが意思決定プロセスを厳格かつシンプルにしたことだ。久保氏は前職で直属の上司に承認してもらったはずが、上司とは別の人が決定を覆してもどかしい思いをしたことがあったという。
企業運営に不可欠だが、時間の浪費につながりやすい――。久保社長は600の創業にあたり、意思決定にかかる時間を徹底的に減らそうとした。具体的には「提案者」「意思決定者」「承認者」の3人で全ての意思決定を下すルールを徹底し、意思決定を迅速にした。物品の購入や経営計画の決定、情報システムの導入など、あらゆる意思決定に一律のルールを適用した。
提案者が起案し、意思決定者が了承し、承認者が最終承認すれば、そのまま実行に移す。この3つの役割はいずれも各1人が担い、権限と責任を明確にしている。この3人以外は意思決定に口を挟めないルールだ。承認者は久保社長になることが多いが、社長ですら承認するかしないかを決める権限しかない。
社員も久保社長も曖昧な意思決定をするわけにはいかず、ある意味厳しさを求められる仕組みだ。しかも、決定に関わった3人は決まったことをやり抜く責任を負う。久保社長は「週休3日制は既得権益ではない。形骸化したり弊害が目立つようになったりしたら、いつでもやめようと思っている。みんなでこの制度を大切にして維持しよう、と常々社員に呼びかけている」と強調する。