情報システムに関わる大型訴訟がなかなか無くならない。ITが経営にとって一段と重要な存在になった現在、IT裁判はどの企業にも対岸の火事ではない。裁判資料や判決文を基に巨額裁判の経緯を紐解き、開発実務や法務面での教訓を探る。
システム開発の失敗を巡り、野村ホールディングス(野村HD)と野村証券が日本IBMに計36億円の損害賠償を求めていた裁判で、東京地方裁判所は2019年3月20日、一部の請求を認めて日本IBMに約16億円の支払いを命じた。日本IBMによる反訴の請求は棄却した。
ただし訴訟費用の負担割合は野村グループと日本IBMが10:11とほぼ半々だ。開発失敗の責任が日本IBMにあるとしつつ、認められた賠償額や訴訟費用負担の割合から見れば「痛み分け」の判決ともいえる。
パッケージでIT費用の削減を狙う
争いの対象は個人客が資産運用を証券会社に一任する金融サービス「ラップ口座」向けフロントシステムである。運用担当者は同システムを使い、顧客の要望に沿ったポートフォリオ管理計画を作成する。
野村証券は2008年ごろから、老朽化した基幹系システムを2013年までに全面刷新する計画を進めていた。併せてラップ口座システムの刷新を決めた。その際に「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やパッケージソフトを活用してIT費用を抑える方針を打ち出した」(内部関係者)。
ラップ口座システムの開発は日本IBMと、既存ベンダーである野村総合研究所(NRI)とのコンペになった。
日本IBMはラップ口座向けパッケージソフト「Wealth Manager」のカスタマイズ導入を提案した。Wealth Managerの開発元は金融系ソフト大手であるスイスのテメノスだ。テメノスはIBMとパートナー関係にある。
NRIが提案したソフトは口座数が5000以上になると処理しきれないなど、野村側の要求とは開きがあった。最終的に野村は日本IBMの提案を採用、2010年11月に契約を結んだ。
2011年1~4月の要件定義から基本設計、詳細設計を経て、2012年3月末に内部テストを完了。NRIの証券総合バックオフィスシステム「THE STAR」と接続する総合テストを経て、2013年1月4日に本稼働させる予定だった。開発費用の見積もりは17億7900万円だった。だが開発は相次ぎ遅延。総合テストに至るも不具合が収束せず、野村側は開発中止を決めた。