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三越伊勢丹が怒濤(どとう)のデジタル攻勢を見せている。DX推進子会社の設立を含む組織再編、相次ぐ新サービス提供など、従来にないスピード感で矢継ぎ早にデジタル施策を実行する。新型コロナ禍で百貨店業界を取り巻く環境が様変わりする中、生き残りをかけた三越伊勢丹の「百貨店DX」の全貌に迫る。

注:記事中の三越伊勢丹グループ関係者の肩書は2021年3月時点
「三越伊勢丹リモートショッピング」では、販売員がチャットやビデオ通話機能を使って顧客とやり取りする(写真:村田 和聡)
「三越伊勢丹リモートショッピング」では、販売員がチャットやビデオ通話機能を使って顧客とやり取りする(写真:村田 和聡)
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 「本日は春先に着られるアウターを3点ご用意いたしました」「ゆったりと着られ、着心地も良いですよ」――。

 2021年2月下旬、伊勢丹新宿店(東京・新宿)の紳士服売り場ではWebカメラ内蔵のパソコン越しに顧客の質問に応対しながら商品を紹介する男性販売員の姿があった。三越伊勢丹が2020年11月に立ち上げたオンライン接客サービス「三越伊勢丹リモートショッピング」の利用風景だ。独自開発した専用アプリを顧客に使ってもらい、チャットやビデオ通話機能を通じて店員が店頭の商品を販売する。

 顧客は気に入った商品があれば、アプリからすぐに購入できる。新型コロナ禍で店舗への来店客が減る中、オンライン接客で顧客との接点を増やす狙いだ。既に伊勢丹新宿店のほか、日本橋三越本店(東京・中央)、銀座三越(同)でサービスを展開する。

 同サービスの企画に関わった三越伊勢丹MD統括部デジタル推進グループシームレス推進部の原田剛志氏は「顧客の反応は大変良く、想定以上に使われている」と手応えを語る。

新社長「DXは避けて通れない」

 オンライン接客サービスは、三越伊勢丹が掲げるデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略のほんの一部にすぎない。同社は2021年3月まで社長を務めた杉江俊彦氏の号令のもと、DXを軸とした経営強化を打ち出してきた。同年4月に杉江氏から社長を受け継いだ細谷敏幸氏も2月26日の就任会見で「DXはこれから避けて通れない。スピードを緩めることは絶対にない」と、DX推進の方針を継続する。

 三越伊勢丹がDXに力を注ぐ背景には、百貨店業界が置かれる厳しい現状がある。「小売りの王様」として長年君臨してきた百貨店業界だが、市場規模は1991年の9.7兆円をピークに減少に転じた。バブル崩壊や専門店との競争激化、EC(電子商取引)の普及で、2020年は4.2兆円まで縮んだ。

 三越伊勢丹も業績は厳しく、持ち株会社である三越伊勢丹ホールディングスの2021年3月期の売上高予想8000億円は、2008年に三越と伊勢丹が統合した直後の売上高1兆4266億円と比べて4割減の水準だ。ギリギリの状態の中、三越伊勢丹、ひいては百貨店業界全体の浮沈をかけた事業変革の鍵が他ならぬDXというわけだ。

図 三越伊勢丹ホールディングスの連結業績の推移
図 三越伊勢丹ホールディングスの連結業績の推移
百貨店らしさ死守も、コロナ禍で急ブレーキ(出所:三越伊勢丹ホールディングスのIR資料を基に日経コンピュータ作成 写真:村田 和聡)
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 新型コロナ禍でデジタルの取り組みを一時中断する企業も多いが、同社はDX施策のアクセルを緩めない。「(DXに対する)経営トップの強いコミットメントがあり、むしろ危機感を持ってさらに力を注いでいる」と同社のデジタル戦略を統括する椎野聡取締役常務執行役員MD統括部長は語る。