政府が自治体の声を聞いて反映を
政府が自治体向けに用意する情報共有システムがいくらあっても、課題は国と自治体がどう運用できるかだ。自治体から政府への要望を反映したり、質疑に答えたりといったキャッチボールを促して施策を円滑に進められるようにしないと、自治体にとっての有用性は損なわれる。
一方、自治体職員同士には民間のチャットアプリの利用が広がる。「共創」の好事例としては、全自治体の3分の1以上が活用する自治体専用チャットツール「LoGoチャット」がある。ふるさと納税総合サイトなどを運用するトラストバンクが提供するチャットツールだ。2020年春の特別定額給付金業務では複数の自治体の職員が、給付処理に使えるExcelマクロを作ってはLoGoチャットで共有し、改良していった。
政府は2021年9月にデジタル庁を創設して、自治体を含む行政デジタル化の司令塔に据える。新型コロナワクチン接種を進める中で、政府が自治体の声を聞いてどう反映するのか。「共創」に向けた情報共有の現実的な在り方が問われる。
内閣府大臣補佐官 小林 史明 氏
ワクチン接種システム(VRS)は内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(IT室)が2021年1月後半から検討・開発を進め4月にリリースした。同月時点で全国約1700の自治体が利用する。開発を主導した小林史明大臣補佐官に聞いた。
2021年1月20日に私が内閣府大臣補佐官に就任した時点で新型コロナワクチン接種事業に、通常の予防接種事業とは異なるポイントが3点あった。
1つが1億人以上が短期間に2回接種をすること。2つめが国民の関心が高く、自治体への問い合わせが多く寄せられること。3つめが当初から「接種証明」を国際的に求められる可能性があったということだ。
では何が必要か。まず予防接種記録のデータ登録だ。多くの自治体は予防接種をしてから予防接種台帳にデータを登録し、反映されるまでに2~3カ月かかっていた。この期間を短くしないと問い合わせに対応できない。災害発生時などへの対応も必要だ。そこで、1月の後半から検討してVRSを作ることにした。
VRSの開発体制は20人超。自治体からの問い合わせに対応する必要もあり、順次各省から集まってもらった。厚生労働省や経済産業省などのほか、自治体や民間からの出向もいる。様々な人材の混成チームになっている。私が各大臣や各省にお願いして人を出してもらった。チームは毎日定例ミーティングをやり、私も欠かさず出席していた。その場に出た課題はその場で整理する。2021年1月後半に構想して4月12日にリリースと、実質的な開発期間は2カ月ない状況だった。ピラミッド型の決裁をしていては間に合わないので、その場で決めて前へ進めてきた。
VRSの開発に当たって、Facebookページ「デジタル改革共創プラットフォーム(β版)」で自治体とコミュニケーションを取るなどしてきた。国と自治体がこうした密なコミュニケーションを取ることは珍しい。チーム作りでは自治体から出向してもらい、一緒に作る体制を作った。
VRSはマイナンバーを活用する。マイナンバーの取り扱いについて懸念を持つ自治体もある。個人情報の扱いやセキュリティーなどについて説明したほか、自治体の特定個人情報保護評価(PIA)のひな型をこちらで用意するなどの対応をしてきた。その結果、今VRSへのログインが進んでいるのだと思う。今のところ、「マイナンバーを使いたくない」という自治体は確認していない。
VRSの開発・運用を通して、政府のシステム構築にはチームの多様性が重要だと痛感している。政府、自治体、民間といったそれぞれの専門や現場を知る人が今回のシステム構築に参加し、とても助かった。チームを多様にすることが必要で、デジタル庁もそうすべきだと各省にも話している。(談)