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新型コロナウイルスワクチン接種を円滑に進めるため政府と自治体は相次いで関連システムの運用を始めた。2021年9月設置予定のデジタル庁が担うマイナンバー活用や、国と自治体が一体となったデジタル化推進の先駆けであり、デジタル庁の成否を占う試金石と言える。政府と自治体のシステム開発・運用の現状と課題に迫る。

 従来の予防接種では1つのシステムを運用するだけで済んでいたが、新型コロナワクチン接種では6システムにまで運用が膨らむ自治体もある──。2021年1月下旬、隣接する大阪市のベッドタウンである人口12万人の大阪府門真市の市役所はワクチン接種のシステム導入プロジェクトが「炎上」していた。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下、IT室)や厚生労働省はワクチン接種に必要なシステムの資料を次々と公表したものの、多くの自治体にとってはどのシステムがどのような役割を持つのか分かりにくかったからだ。

図 ワクチン接種記録システム(VRS)と他システムとの連携の概要
図 ワクチン接種記録システム(VRS)と他システムとの連携の概要
新型コロナワクチン接種では複数のシステムが連携(出所:内閣府の資料を基に日経コンピュータ作成)
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 2021年9月創設のデジタル庁が担う行政のデジタル化については、自治体と政府、自治体間の適切なコミュニケーションが不可欠だ。門真市はシステム運用の解説資料を作成し「炎上」を乗り切り、その資料を他自治体やIT室とも共有した。

ワクチン接種に複数システム

 通常、予防接種業務は担当部署の保健師らが担う。これまで利用したことがない複雑なシステムをすぐに使いこなすのは難しい。そこで門真市は同市のICT担当部署である企画財政部ICT推進課に助けを求めた。同市の場合、通常の予防接種に用いるシステムは予防接種台帳のみだ。一方、今回厚労省は新型コロナワクチンの配送円滑化のために配送管理システム「V-SYS」を用意した。「厚労省の説明ではV-SYSと予防接種台帳だけで運用できると見えたが、そうではなかった」とICT推進課の坂本貴士課長補佐は振り返る。

 実際は、予防接種台帳、V-SYS、市が用意する住民からの接種予約管理システムの3つに加え、政府が開発したワクチン接種管理システム(VRS)、住民基本台帳、住基ネットの計6システムを連携して運用する必要があると明らかになったのだ。

 坂本課長補佐はIT室や厚労省の公表資料を基に、複雑なシステムの役割や運用を分かりやすく説明するためのフロー図を作製した。この資料は他自治体やIT室とも共有し、役に立っているという。自治体によっては、ITに詳しい担当者がいなかったり、IT担当部署と接種担当部署の協力体制が整っていなかったりするケースもある。特にこうした自治体で「(システムに詳しくないが、予防接種を担当する)保健師らに好評だった」(坂本課長補佐)と手応えを話す。