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岸田文雄内閣が目玉政策の1つに掲げる「経済安全保障」。とっつきにくさはあるが、実はITと関わりが深い。今国会では経済安全保障推進法案が成立する見通しで、法案が示す4つの柱はいずれもIT業界にも大きな影響を及ぼす。ロシアのウクライナ侵攻で地政学リスクが一段と高まるなか、IT業界はリスクにどう対処し、安全保障の確保と自由な経済活動のバランスをどう取るべきなのか。

(写真:Getty Images)
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 経済安全保障とは何なのか。岸田政権で新設した経済安保担当大臣のポストに就いた小林鷹之衆院議員は自身のWebサイトで次のように説明する。

 「一言で言えば、『経済面から国の独立、生存及び繁栄を確保すること』」――。小林大臣は「デジタル化の遅れなどへの対策」や「先端技術・データの海外流出の防止策」などといったITやデジタルに関連した課題も経済安保の課題として挙げている。

時代の転換期が訪れた

 「時代は変わった!」。経済同友会が2021年4月に発表した「強靱(きょうじん)な経済安全保障の確立に向けて」と題した政策提言の文書は、こんな書き出しで始まる。

図 2021年4月に経済同友会が発表した「強靱(きょうじん)な経済安全保障の確立に向けて」と題する文書
図 2021年4月に経済同友会が発表した「強靱(きょうじん)な経済安全保障の確立に向けて」と題する文書
企業経営における経済安保の重要性を強調(画像出所:経済同友会、背景:Getty Images)
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 同文書で経済同友会は「中国の経済成長と国際秩序への挑戦、米国による対抗が激化する中で、戦略的自立を目指す欧州(EU)が加わった三極間のパワーゲームの構図が鮮明になっている」との時代認識を示した。さらに「グローバル化と自由主義経済を謳歌する時代は終わりを迎えた」と言い切った。

 そのうえで日本の企業経営者には、「経済の繁栄は国家の安全保障があって初めて成り立つ」と改めて呼びかけた。さらに「コロナ禍の収束後も、1990年代から続いた自由貿易主義的なグローバリズムには戻らず、経済力や先端技術を武器として新たな国際秩序が構築される、『非常時下』の状態が続くとの認識に立つ」ことを前提に、企業活動を通じて国の経済安保強化の一端を担ううえで、新たなリスクに能動的に対応すべく組織文化の変革や転換を進めることなどを求めた。

 国の経済安保強化とITをはじめとするテクノロジーは切り離せない。AI(人工知能)や量子技術などの先端技術を巡る米中の技術覇権競争のなかで、日本も他国に過度に依存しないよう技術開発を進めることが重要となっている。リスク管理上、サイバーセキュリティーの強化も欠かせない。

 さらにロシアによるウクライナ侵攻も経済安保に対する認識を高める契機となっている。サプライチェーン(供給網)が混乱し、エネルギーの安定供給や資源の調達にもリスクが生じているからだ。

 侵攻に伴いサイバー攻撃の脅威も高まっている。2022年3月21日、米国のバイデン大統領は米国内の重要インフラ事業者などに対して、ロシアのサイバー攻撃に対する警戒を呼びかけた。日本でも2022年3月24日、経済産業省や総務省などが政府や重要インフラ事業者をはじめとする企業・団体に対して、サイバーセキュリティー対策の強化を求める文書を出した。