リコーが複合機一本足の事業構造から脱却し、ITサービス企業への変身に挑んでいる。社内外のクラウドサービスを組み合わせ、オフィスのデジタル変革を支援する。販売力で躍進を続けたかつての優良企業の代表格は再び、成長路線に回帰できるのか。
「機は熟した」。年明け早々の2019年1月8日、新型の複合機を発表する記者会見でリコーの山下良則社長はこう宣言した。会見には同社のテレビCMに出演する女優の吉瀬美智子さんも登壇し、終始晴れやかなムードに包まれた。「構造改革から持続的成長へ」。山下社長は会見にこんな思いを込めていた。
2019年1月に発売した複合機「RICOH IM Cシリーズ」は「新生リコー」を象徴する商品だ。「コピー機のリコーという内外の認識を根本から塗り替える」(山下社長)。
ハードとソフトを分離
従来の複合機との違いは、ハードとソフトを分離し、ソフトの更新によって最新機能を定期的に追加できるようにしたところにある。リコーの野水泰之常務執行役員プラットフォーム事業本部事業本部長は「IM Cシリーズから本格的に機種依存を取り除く」と強調する。
ハードとソフトを切り離すことで、ソフトの開発スピードも引き上げられる。これまでは機種ごとに異なるソフトを開発していたので、ソフトの動作検証に時間がかかった。異なる機種でソフトを一本化することによって、これまで3~4カ月かかっていたソフトの評価期間を半分以下に縮めることを目指す。
これまでの常識に照らせば、ハードとソフトの分離は「禁じ手」ともいえる施策だ。ソフトの更新で必要な機能を追加できるようになれば、複合機の買い替えサイクルが延びて、売り上げが落ちかねない。
必然的に販売シェアや、市場での複合機の稼働台数を指す「MIF(Machines In the Field)」の獲得競争からは距離を置かざるを得ない。将来的にリコーは複合機の買い替えサイクルが現状の約4年から8年程度に伸びると見込む。野水常務執行役員は「箱中心の作り方、売り方を変えていく」と力を込める。