一般の事業会社が「エンベデッドファイナンス(組み込み型金融)」を活用し、自社サービスに金融機能を持たせる事例が増えている。従来は自ら銀行免許などを取得し、参入する形が一般的だったが、エンベデッドファイナンスの台頭でこうした常識は崩れ始めた。金融と非金融の境界は曖昧になり、そこに新たなビジネスチャンスが生まれている。
「欲しかったのは『バンク(銀行)』ではなく『バンキング(銀行機能)』だった」。ヤマダホールディングス(HD)の古谷野賢一事業統轄本部金融セグメント代表(ヤマダファイナンスサービス代表取締役を兼務)は打ち明ける。
ヤマダHDはエンベデッドファイナンスを活用し、銀行サービスに進出した筆頭格だ。2020年10月、住信SBIネット銀行と新たな金融サービスの実現で合意したと発表。住信SBIが提供するBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)を利用し、子会社を通じて、2021年7月に新しい金融サービス「ヤマダNEOBANK」を始めた。
BaaSとは、銀行などが預金や融資といった金融機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で企業に提供する仕組みを指す。ヤマダNEOBANKでは、ヤマダHDが手掛けるスマートフォンアプリの利用者向けに、預金や決済、融資といったサービスを提供する。「ヤマダポイント」をためたり、アプリを操作してATMを利用したりできる。
それだけではない。傘下に家電量販大手のヤマダデンキ、住宅関連のヤマダホームズやヒノキヤグループ、大塚家具などを抱える強みを生かし、住宅ローンに家具や家電の購入資金を組み込める。古谷野氏は「金融は門外漢。金融のプロと連携し、本業とのシナジーを引き出していく」と話す。
金融は直販から間接モデルへ
従来、ヤマダHDのような一般の事業会社が銀行サービスを手掛けようとすれば、自ら銀行免許を取得し、顧客に商品・サービスを提供する「直販モデル」が中心だった。流通企業では傘下にセブン銀行を持つセブン&アイ・ホールディングスやイオン銀行を抱えるイオンが代表例だ。直販モデルはシステム構築や組織体制の整備にコストがかかり、参入のハードルは高かった。
エンベデッドファイナンスはそのハードルを下げる。事業会社(ブランド)は銀行など(ライセンスホルダー)と手を組み、自社サービスに金融機能を組み込みやすくなったからだ。
ただし、事業会社の中には、APIなどデジタル関連の知見やノウハウを十分に持たないところも少なくない。そこで、システム基盤の提供などを通じてブランドとライセンスホルダーをつなぐ「イネーブラー」と呼ばれる企業も存在感を高めている。
例えばFinatextホールディングス(HD)やインフキュリオンなどがイネーブラーに該当する。FinatextHDの伊藤祐一郎取締役CFO(最高財務責任者)は「自ら銀行業に参入するケースと比べて、(エンベデッドファイナンスを使うと)システムや人材への投資を10分の1近くに抑えられるのではないか」と語る。