疾患や老化が原因で低下した体の機能を回復させる「リハビリテーション」の手法が多様化している。脳研究の発展に伴い、身体だけではなく脳にも着目したリハビリ技術の開発が進んできた。VR(仮想現実)やセンサーなどの技術を駆使して脳にアプローチする最新の技術を追った。
10年ほど前に小脳出血を発症した40代の女性は、歩く際につえが欠かせなかった。体の右側の機能低下が著しく、自分で制御して手足を動かすのが困難で、腕を上にあげるだけでバランスを崩す状態だった。ところがVR(仮想現実)を活用した20分程度のリハビリを週3回、2カ月続けたところ、女性はつえがなくても歩けるようになった――。
疾患や老化が原因で低下した体の機能を回復させる「リハビリテーション」の手法が多様化している。ここ数年、VRやセンサーなどの先端技術を利用し、データを活用したり脳に注目したりする新しいリハビリが続々と登場している。
先端技術で効果を高める
リハビリの現場に先端技術が浸透してきたのは、リハビリの需要が増えていることが背景にある。医療の進歩により脳卒中で倒れても救命できる確率が高まり、結果として脳卒中の後遺症に悩む患者が増えた格好だ。後遺症でまひが残ると、思うように体を動かせなくなってしまう。こうした患者に効果の高いリハビリを施すことで、寝たきりにならず自分で動ける生活を送れるようになるなど、患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を高められる。
これまでリハビリの効果は、リハビリを支援する側の手腕とリハビリを受ける側の意欲に大きく依存してきた。理学療法士がまひなどの障害の残る患者の手足を直接動かして可動域を広げ、筋力トレーニングを実施する際、頼るのは自身の知識や過去の経験、感覚だ。裏を返すと理学療法士の経験年数や個人の技量で効果に差が生じる可能性がある。
理学療法士の手腕が優れていてもリハビリを受ける側の意欲がなければ効果を高めることはできない。患者をやる気にさせるのもリハビリの効果を高めるうえで重要になる。
患者のモチベーションを保ちながら効果の高いリハビリを提供する技術の有力候補がVRだ。ゲーム感覚で取り組めるためトレーニングが長続きしやすい。VRを利用したリハビリの効果は実証されつつある。
冒頭で紹介した女性が利用したリハビリ用の医療機器「mediVR カグラ」を開発販売するmediVRの原正彦社長は「VRは3次元の動画に合わせて上下左右、奥行き方向に体を動かせるため、リハビリに向いている」と解説する。原社長は医師であり、従来のリハビリ現場を見ているうちにVRを使ったトレーニングのアイデアを思いついた。
カグラは歩行が難しい患者を対象に、正しい姿勢のバランスを体に記憶してもらい、安定して歩けるようにする目的で開発された。患者は座った状態で頭にVR装置を装着し、手に持ったコントローラーを動かして画面上に現れる物体をタッチする。
VRによるリハビリを始める前に、患者がどの位置まで手を動かせるかを計測し、手が届かない場所に物体を表示するのを防ぐなど、患者に合ったコンテンツを提示する。