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ガバクラ運用に自治体が懸念

 デジタル庁は、国民が広く使うシステムを開発・運用する役割も担っている。GビズIDやe-Govのように、同庁が発足した後に運用を移管されたシステムもあれば、ワクチン接種証明書アプリのように同庁が開発から運用まで手掛けるシステムもある。

 同庁が運用を担うシステムは今後も増えていく。大きなものでは、同庁が整備し自治体や政府が共同で使うマルチクラウドのシステム基盤「ガバメントクラウド」が控えている。

 政府は現在、全国約1700自治体における20業務のシステムを2025年度末までに標準化・共通化する「自治体システム標準化」に取り組んでおり、運用環境としてガバメントクラウドをできるだけ使うとしている。

 自治体システム標準化の先行実証事業では、同庁はガバメントクラウドでつかうクラウドサービスとして、米アマゾン・ウェブ・サービスの「Amazon Web Services(AWS)」と米グーグルの「Google Cloud Platform」の2つを採用した。マルチクラウドを構成するクラウドサービスは今後も増えるとみられる。

 ただ、ガバメントクラウドのユーザーである自治体の情報システム関係者からは、運用や障害発生時の対応について早くも不安の声が上がっている。懸念の声が高まったのが、2022年1月に起こったLGWAN(総合行政ネットワーク)の大規模障害である。

 LGWANとは、自治体間をつなぐ全国規模の通信ネットワークであり、自治体は自治体間の情報共有や自治体内の業務に使う。運営するのは、デジタル庁が所管する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)である。

 2022年1月に発生した大規模障害では複数の自治体に影響が及んだ。具体的には、コンビニエンスストアでマイナンバーカードを使った住民票の交付ができなくなったり、自治体職員のテレワークシステムなどが使えなくなったりした。

 システム障害そのものは1日で復旧したものの、発生時にJ-LISから自治体への情報提供が不十分で、多くの自治体が状況を把握できず混乱した。システム障害は起こるものとしても、J-LISの対応や事前準備が不十分だったことに対し、自治体からは不満の声が上がった。

 「J-LIS側でLGWAN障害だと分かった時点で、一刻も早く自治体に情報を提供してほしかった。影響範囲や障害内容が分かった時点でも知らせてほしかった」。ある政令指定都市の幹部職員はこうこぼす。情報提供がなかったため、自治体によってはLGWAN以外にも障害の原因があるのではと考え、調査の手を広げた。

 この幹部職員は「ガバメントクラウドの運用と障害対応で自治体が懸念していたことが、今回のLGWAN障害でまさに現実となった」と続ける。そして「デジタル庁、総務省、J-LISは今回の件をしっかり検証して、自治体との連携を含めたシステム障害対応の体制整備につなげてほしい」と訴える。

表 デジタル庁が運用するシステムに関する主な出来事
情報漏洩が頻発
表 デジタル庁が運用するシステムに関する主な出来事
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人を増やすか仕事を減らすか

 では、システム運用を担うデジタル庁の体制は十分なのだろうか。「業務量が多過ぎるうえ、人的リソースが不足しているのではないか。職員を増やすか、業務に優先順位を付けて業務量を減らすべきだ」。デジタル庁の政策を評価する有識者会議で座長を務める国立情報学研究所の佐藤一郎教授はこう指摘する。

 佐藤教授は、デジタル庁が採用する「プロジェクト制」にも課題があるとみる。同庁は一般的な省庁で見られる縦割りの部局を採用せず、プロジェクト単位でチームをつくるプロジェクト制を採用している。

 他省庁の「局」に相当するまとまりとして、デジタル庁には「国民向けサービスグループ」「デジタル社会共通機能グループ」など4つのグループがある。これと並行して、グループの垣根を越えてプロジェクトごとに機動的にチームをつくっている。例えばワクチン接種記録システム(VRS)の開発・運用を担うチーム、接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の運用を担うチームなどがある。

 課題は、1人が複数のプロジェクトを兼任する点だ。「効果的にプロジェクトを進めるには一定期間は専任で集中する必要がある。1人が同時に複数のプロジェクトに携わると、効率が悪くなりがちだ。特にシステム開発プロジェクトでは兼任ではなく、一定期間は専従にすべきだ」。佐藤教授はこう指摘する。

 デジタル庁もこうした課題を認識しており、見直しを進めている。人不足については、職員数を2021年9月発足時の約600人から、2022年4月には約730人に増やした。自治体出身の職員は41人の純増。民間出身者は約50人増の約250人となり、常勤者は約30人と発足時の10倍に増えた。

 プロジェクト制についても改善する。同庁幹部は「1人が担当するプロジェクトを絞る方向で整理している。できるだけ専従でプロジェクトを担当できるようにしていきたい」と話す。

 人を増やしプロジェクトの生産性を高めるだけで、業務量の増加を解消できるのか。行政DXを進めるなかで同庁が運営しなければいけないシステムはさらに増える。システム運用をJ-LISなど他の関連団体と分担したり協力したりする必要があるだろう。

図 デジタル庁の組織(2021年9月1日時点)
図 デジタル庁の組織(2021年9月1日時点)
グループを越えチームつくる(出所:デジタル庁の資料を基に日経コンピュータ作成)
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