業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)に突き進む企業は先行するがゆえ新たな課題に直面し、理想と現実のはざまで奮闘している。今年3月、積水化学工業をはじめ先進各社でDXをけん引するリーダーが日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ主催の「ITイノベーターズ会議」に参加。DXの取り組み状況や課題を語った。
「4つの危機感があり、それらを克服するためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させている」。積水化学工業の前田直昭デジタル変革推進部ビジネスプロセス変革グループグループ長はITイノベーターズ会議の講演でこう力を込めた。
積水化学は現在、「グローバル競争に挑んで業容を倍増させる」という目標を掲げ、国内中心の事業構造から脱却し、成長の軸足を海外市場に移そうとしている。そんな中で同社は「ガバナンス」「労働力不足」「経営データの分散」「市場変化に伴う収益力低下」という4つの危機感を抱いた。これら4つの危機感を克服しグローバル競争に勝ち抜く手段として位置付けたのがDXだった。
積水化学のDXで特徴的なのは「チェンジマネジメント」を重視したことだ。約1年かけて、加藤敬太社長や各事業・コーポレート部門の幹部らが集まり、DXの方向性や具体策について議論を重ねた。
「積水化学における危機感や課題をどう解決していくのか。その手段としてのDXはどうあるべきなのか。膝詰めで検討できた」。前田グループ長はこう手応えを語る。チェンジマネジメントを通じて、経営陣や幹部、キーパーソンが密に対話しながら、将来のあるべき姿やDXの具体的な施策を決めてきた。
積水化学が取り組むDXの目玉施策の1つが、基幹系システムの刷新だ。現行の基幹系システムは、現状のビジネスに最適化されており、ほぼベストな状態という。それでも、グローバル市場での事業を円滑に進めるために、新たな基幹系システムを構築することにした。現在、グローバル標準のクラウド型ERP(統合基幹業務システム)への移行を進めている。
スピード感を持ってDXを推進するため、組織体制にもメスを入れた。積水化学は2020年4月にDXの専門部署である「デジタル変革推進部」を新設。その傘下に大きく「ビジネスプロセス変革グループ」と「情報システムグループ」を置く体制とした。
2グループの役割については、主にビジネスプロセス変革グループが基幹系システム刷新などの「攻め」を、情報システムグループは既存システムの維持・改革といった「守り」をそれぞれ担う。この2グループによる「攻守一体」(前田グループ長)の運営でDXを進める。