倫理に反する人工知能(AI)を提供すれば、巨額の制裁金が科される。そんな事態がいよいよ現実のものとなりそうだ。欧州連合(EU)で「AI規制案」が2024年に全面施行される可能性がある。AIの提供者にとって、AI倫理への取り組みは待ったなしの状況といえる。実際、米IBMやNTTデータなどAI倫理に取り組む企業は少なくない。AI規制案の動向とAI倫理への取り組み事例を解説する。
「EUのAI規制案は施行に向けて着々と準備が進んでいる。2024年には全面施行になる可能性がある」。渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の三部裕幸弁護士は、EUの欧州委員会が整備を進めるAI規制案の状況をこう語る。
EU AI規制案はEU加盟国で販売したりサービスを提供したりするAIシステムのプロバイダー(提供者)が規制の対象になる。AIシステムにとどまらず、推論結果などのアウトプットをEUで提供する場合も対象に含まれる。日本のAIシステムのプロバイダーもEUでサービスなどを提供する際に適用される。
EU AI規制案で注目すべきは、巨額の制裁金を科す点だ。EU AI規制案はAIシステムのリスクを基に4つの区分に分類し、区分によってAIシステムのプロバイダーに様々な義務が発生する。現状のAI規制案では、違反した企業には3000万ユーロ(1ユーロ136円換算で40億8000万円)と前年度全世界売り上げの最大6%のうち金額の大きいほうが制裁金として科される。
内閣府が2019年に公表した「人間中心のAI社会原則」の検討会議で議長を務めた中央大学の須藤修教授ELSIセンター所長はEU AI規制案について「欧州の戦略をグローバルのルールにしたいという意図が見え隠れする」と指摘する。
これまで特定の業界におけるAIの利活用に関するルールを整備した例は存在する。例えば米国は州ごとに定める雇用や消費者保護、金融など特定の業界におけるAIの利活用に対する法整備が進んでいる。日本にはAI全般の利活用における法的な拘束力をもったルールがまだない。EU AI規制案はAI全般の利活用を対象とした世界で初めての法規制となる見通しだ。法令として巨額の制裁金を科すという点が、注目を集める要因となっている。