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銀行口座を介さずデジタルマネーなどで給与を受け取れる「給与デジタル払い」解禁の議論が停滞している。「労働者保護など安全性が不十分」などの反対意見が噴出、解禁に向けた議論は宙に浮いたままだ。給与デジタル払いのインパクト、メリットやデメリットは何か。解禁の行方を展望する。

(写真:Getty Images(左)、123RF(中)、Getty Images(右))
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 「給与デジタル払いが解禁されれば、日本経済に与えるインパクトは非常に大きい」。野村総合研究所の金融デジタルビジネスリサーチ部の竹端克利氏はこう語る。内閣府のGDP統計によると2020年の日本全体の雇用者報酬は約280兆円だ。給与デジタル払いが導入され「1%がデジタル払いを選んだとしても、約3兆円のカネの流れが変わる」(同)。

 現在の労働基準法では、給与は手渡しが原則。銀行口座や証券口座への振り込みは、あくまで「例外」として認めているという位置付けだ。給与デジタル払いとはこの例外にPayPayやLINE Payといった資金移動業者を追加することで、現金を介さず直接デジタルマネーで給与を受け取れるようにする制度だ。資金移動業者とは銀行などの預金取扱機関以外に個人間や個人と企業の間の送金サービスを営む登録事業者を指す。

 これまでは必要な時にだけチャージしていたお金が、給与振込によって安定的にプールされればキャッシュレス決済を使う頻度も上がる。カネの流れの変化が新たなビジネス機会につながるとし「給与デジタル払いを入り口に購買行動と金融行動がよりシームレスになるだろう」(竹端氏)。