米ヴイエムウェアが2019年8月に開催した「VMworld 2019」で、製品・サービスの新ブランド「VMware Tanzu」を発表した。サーバー仮想化ソフトにコンテナ管理ツールのKubernetesを組み込む。巨大なインストールベースを持つサーバー仮想化ソフトを強みとして、コンテナ基盤ソフト市場でも覇権を握る狙いだ。仮想化技術をけん引するヴイエムウェアの最新動向を伝える。
「Kubernetes(クーバネティス)の普及に注力する」――。米ヴイエムウェアの年次イベント「VMworld 2019」で、同社のパット・ゲルシンガーCEO(最高経営責任者)はKubernetes活用に大きく舵を切ったコンテナ戦略を押し出した。
Kubernetesはコンテナ群を管理する「コンテナオーケストレーター」の1つだ。オープンソースソフトとして提供されており、立ち上がりつつあるコンテナオーケストレーター市場でデファクトスタンダードといえる存在だ。
Kubernetesの開発推進団体Cloud Native Computing Foundation(CNCF)には米アマゾン・ウェブ・サービスや米グーグル、米IBM、米マイクロソフト、米オラクルなどが名を連ね、共同で機能強化を進めている。
ヴイエムウェアはKubernetesを、サーバー仮想化ソフトの「VMware vSphere」に組み込んで提供する計画だ。「数十万の顧客を持ち7000万に上る仮想マシンのインストールベースがある。これをそのままKubernetesフレンドリーに変えていける」(ゲルシンガーCEO)。
強みのあるサーバー仮想化ソフトにKubernetesを搭載することで、成長が見込まれるコンテナ基盤ソフト市場でも覇権を握る狙いだ。
VMware製品のユーザーは将来的に、vSphereをバージョンアップするだけでKubernetesが手に入り、コンテナの利用環境が整う。巨大なインストールベースを生かすKubernetes戦略は、コンテナ基盤の導入を進めたいユーザーはもちろんのこと、コンテナ普及に力を入れるベンダーにとっても要注目だ。
「Tanzu」のブランド名で展開
ヴイエムウェアは今後「VMware Tanzu(タンズ)」のブランド名で、Kubernetes関連の製品・サービスを充実させていく。
市場にはライバルがひしめいている。CNCFの参加企業をはじめ多くのベンダーが既にKubernetesを提供中だ。ゲルシンガーCEOは「Kubernetes上のアプリの開発、実行、運用という3つの環境を包括的に提供できるのはヴイエムウェアだけだ」と他社に比べた自社の強みを訴えた。
ヴイエムウェアはTanzuによって、DX(デジタルトランスフォーメーション)を支えるような、コンテナを使った次世代アプリの開発支援にフォーカスしている。アプリ開発を推進するために、米ビットナミと米ピボタル・ソフトウェアの力を借りる。どちらもヴイエムウェアが最近買収を発表した企業だ。ゲルシンガーCEOは「ビットナミとピボタルの買収で500万人の開発者にリーチできるようになる」と、Tanzuを使う開発者コミュニティーを一気に広げられる可能性を示した。
ビットナミはオープンソースを中心にソフトをパッケージ化する技術を持つ。オンプレミス(自社所有)環境や様々なクラウドにソフトを配置した上でメンテナンス作業を自動化し、開発者の負担を減らす。
ピボタルはJavaフレームワーク「Spring」やクラウドアプリ基盤「Pivotal Cloud Foundry」を組み合わせたCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)型の開発手法に強みを持ち、開発コンサルティングや開発ツールの提供を手掛ける。同社の開発ラボ「Pivotal Labs」はクラウドに最適化したアプリ開発に強い。
もともとピボタルは2013年にヴイエムウェアとEMC(現米デルEMC)から分社化する形で設立された。Cloud FoundryとPivotal Labsを中心に開発者の支持を集めてきたが、ここにきてヴイエムウェアは自社内に取り込みシナジーを狙う戦略に切り替えた。
ゲルシンガーCEOはピボタル買収のタイミングを「Cloud FoundryのKubernetes対応が進み、買収によってピボタルの成長を加速できる状況になった。ヴイエムウェアとピボタルは一緒にやったほうがよいという顧客の声も買収を後押しした」と説明する。
ビットナミやピボタルの買収は、ヴイエムウェアがITインフラ管理の会社からアプリ開発支援の会社へ進化する大きなターニングポイントになる。