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新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から非接触の本人認証手段のニーズが高まっている。そうした中、ホテルのチェックインや買い物の支払いなど、様々な場面で顔認証技術の採用が広がっている。ただし闇雲に「顔」の利用を広げるのは個人情報保護、倫理的な側面から議論が残るところだ。現状はどのような場面で使われているのか。実際の導入事例からその着地点に迫る。

(写真:Getty Image)
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 新型コロナウイルス禍に突入した2020年、三井不動産は新ホテルブランド「sequence(シークエンス)」を立ち上げた。特徴は宿泊客がホテルを利用する際の節目となる場所に、顔認証を導入したこと。フロントに設置した端末に宿泊客が顔をかざすとチェックインできたり、客室の扉近くの端末に顔をかざすと扉の鍵を解除したりするサービスを提供している。顔がルームキー代わりになるのだ(詳細は後述)。

 全国に716店舗(2022年9月1日時点)の薬局を運営する日本調剤。同社はマイナンバーカードを用いた「オンライン資格確認」のフローの一部で顔認証を活用する仕組みを整えた。日本調剤の山田博樹薬剤本部薬剤企画部企画チーム課長は「慣れれば30秒ほどで薬局の受け付けが完了する」と話し、事務スタッフと顧客双方の負担軽減につながっている。

 こうした顔認証技術は、画像に顔が写っていることを認識するシステムから進化してきた。近年はカメラに写った顔の特徴量から、性別や年齢などの属性まで推定できる。

顔認証発展の裏に深層学習の進歩

 顔認証技術が発達してきた歴史について、パナソニックコネクトの古田邦夫現場ソリューションカンパニービジネスデザイン部部長/顔認証・新規ビジネスデザインエバンジェリストは「2000年ごろにインターネットが進化し、それまで研究者が手作業で撮影して収集していた画像データを簡単に大量に集められるようになった」と話す。顔認証をはじめとする画像認識AI(人工知能)はトレーニングや精度テストなどに大量の画像データを必要とする。2022年7月に米グーグルが論文発表した機械学習モデルは、40億枚もの画像を学習させている。

図 顔認証に関する技術の進歩と、人々の感情に影響を与えたイベントの例
図 顔認証に関する技術の進歩と、人々の感情に影響を与えたイベントの例
進歩する技術と変わる感情
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 顔認証の精度向上にはディープラーニング(深層学習)が寄与している。「2006年に(コンピューター科学者の)ジェフリー・ヒントン氏が深層学習モデルのコンセプトなどを発表。これを皮切りに画像処理の分野でも深層学習が使われ始めた」(富士通の安部登樹研究本部コンバージングテクノロジー研究所ソーシャルデザインプロジェクトプロジェクトマネージャー)。2012年には深層学習における畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)で構築された画像認識AI「AlexNet」が、手作業で特徴量を抽出して構築された画像認識AIをはるかにしのぐ精度を達成した。

 顔認証技術を使って本人を認証する場合、あらかじめ顔画像などを認証システムに登録して利用する。本人認証は大きく分けて、(1)顔を含む画像を撮影し、画像から顔を検出(2)検出した顔画像から特徴量を抽出(3)登録した顔データと照合して本人認証――の3つのプロセスから成る。「(少なくともNECの顔認証技術は)それぞれのプロセスに対応するAIを組み合わせて顔認証技術が成り立っている」(NECの今岡仁フェローAI・アナリティクス事業統括部シニアディレクター)。

図 顔認証の概要
図 顔認証の概要
顔認証の主な流れは3ステップ
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 登録するのは顔データだけではない。入館管理といった目的に応じて氏名や性別、年齢などの個人情報を顔データと合わせて登録する。