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テレワークで生産性が上がったと答えた人の割合は約2割――。そんな調査結果がある一方で、7割の社員が生産性が向上したと答えたテレワーク「巧者」企業も存在する。紙を使う業務の電子化を徹底して進めているほか、在宅勤務時の備品やコミュニケーションなどを工夫している。テレワーク巧者の具体的な生産性向上策を紹介する。

 「いずれ出社勤務に戻るんでしょ、と社員が思ってしまうと導入したオンラインのサービスが使われなくなる恐れが出てくる。そこで出社勤務には戻らないというメッセージを社内に発信した」。電子書籍販売サービスなどを手掛けるイーブックイニシアティブジャパンの今井輝夫最高人事責任者(CHRO)CHRO室長はこう話す。

 イーブックイニシアティブジャパンは社員約180人の多くが1年半以上にわたりテレワークに取り組んでいる。2020年4月から2021年6月までの社員のテレワーク率は97%以上だ。取り組み当初からWeb会議サービスの「Zoom」を利用できるようにしたり、ビジネスチャット「Slack」でコミュニケーションを取るようにしたり、豪アトラシアンの情報共有ツール「Confluence」を使って業務の可視化を徹底したりしてきた。さらに、出社が必要となる紙の文書を扱う業務について、クラウドサービスなどを順次導入して電子化。テレワークで業務を完結できるようにしている。

「オフラインには戻らない」

 「テレワークによって生産性が上がったと答えた人の割合は23.7%。下がったと答えた人は51.1%」。日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2021年4月に実施した「働き方改革に関する動向・意識調査」ではこんな結果が出ている。いずれも、2度目の緊急事態宣言が解除された2021年3月から3度目が再発令される同年4月までの期間における数値だ。

 多くの企業がテレワークの生産性向上を実感していない中、イーブックイニシアティブジャパンはどうか。同社はコロナ禍前から、インフォマートの「BtoBプラットフォーム」を利用した請求書発行の電子化や、米コンカー・テクノロジーズのクラウド「Concur Expense」による経費精算の電子化を進めてきた。請求書発行では、それまで7時間ほどかかっていた作業時間を4時間に短縮。経費精算については、1カ月当たり78時間かかっていた作業時間を、20時間にまで減らせた。

ゲティンゲグループ・ジャパンが導入している経費精算クラウド「Concur Expense」の画面例。クラウドに入力されているデータとレシートなどを同一画面に表示するので確認作業の効率が高まる(画面提供:ゲティンゲグループ・ジャパン)
ゲティンゲグループ・ジャパンが導入している経費精算クラウド「Concur Expense」の画面例。クラウドに入力されているデータとレシートなどを同一画面に表示するので確認作業の効率が高まる(画面提供:ゲティンゲグループ・ジャパン)
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 コロナ下で電子化をさらに加速する。2020年10月には弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」を導入。平均して2週間ほどかかっていた契約締結期間を2~3日に短縮した。2021年4月にはDeepworkが提供するクラウドサービス「invox」を導入し、取引先から受け取った請求書の内容をAI OCR(人工知能を組み込んだ光学的文字認識)を使いデータ化。請求書1件当たりの平均処理時間を導入前の45分から21分に短縮できた。

 電子化を進めることによりテレワークでサービス開発に携わるITエンジニアの生産性も向上した。同社の辻靖執行役員最高執行責任者(COO)は「ITエンジニアが1週間当たりどれだけのタスクを処理できるか調べたところ、コロナ前に比べて40%ほどこなせるタスクが増えていた。モチベーションに関するスコアも調べたが、コロナ下で10%以上向上した」と効果を語る。

 イーブックイニシアティブジャパンの取り組みで注目すべきは、冒頭のように「今後はオンラインで業務を進め、オフラインには戻らない」とのメッセージを社内に発信したことだ。このメッセージによって「オンラインのサービスを使い倒そうとの意欲を社員から引き出せた。その結果、社員がサービスを使い慣れて、生産性を下げることなく、業務を継続できている」と今井CHROは語る。

7割の社員が生産性向上を実感

 テレワークでの生産性向上を実感している「巧者」は他にも存在する。スウェーデンの病院施設向け設備・医療機器メーカーであるゲティンゲの日本法人、ゲティンゲグループ・ジャパンは2021年4月、10カ国でオフィス勤務をしているゲティンゲの従業員を対象にした調査結果を発表した。それによると同社の70%以上の従業員が「テレワークによって生産性が向上し、ワークライフバランスにプラスの影響があった」と答えた。

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在宅勤務をしているゲティンゲグループ・ジャパンの社員(写真提供:ゲティンゲグループ・ジャパン)
在宅勤務をしているゲティンゲグループ・ジャパンの社員(写真提供:ゲティンゲグループ・ジャパン)
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 ゲティンゲグループ・ジャパンは2020年3月から全社員を対象にテレワークを推奨している。医療設備や医療機器を扱う営業担当者やサービスエンジニアは以前から場所によらない働き方を実践してきたが、出社勤務が当たり前だったバックオフィス部門の従業員も多くがテレワークに移行した。

 同社は2020年夏、業務の電子化の一環として、経費精算クラウドのConcur Expenseを導入した。精算する従業員はレシートの写真を撮影して申請できるようにした。ゲティンゲグループ・ジャパンの伊藤浩子財務本部BPIマネージャーは「精算する従業員からも業務が楽になったと好評を得ている。申請内容の確認もとても楽にできるようになった」と話す。

 Concur Expenseは従業員が申請した経費の詳細データと、撮影したレシート画像を同一画面に並べて表示する。「レシートの内容と経費の詳細が一致しているかどうかを見るマッチング作業が格段に楽になった。紙文書を扱っていた業務だとレシートなどを探すのが大変だったが、その手間も省けた」と伊藤BPIマネージャーは話す。