ネット経由で単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」が急増している。時間や組織にとらわれないなど働き方の選択肢を広げる一方、未成熟な領域だけに働き手の保護などで課題も多い。ギグワーカーの理想と現実を整理し、可能性を展望する。
「ギグワーカー」が急増している。クラウドソーシング大手のランサーズによれば、フリーランスの働き手の中でも特定企業との雇用関係を持たない「自由業者(個人事業主含む)」は国内で2021年に859万人と、前年度比で2.4倍に増えた。この「自由業者(個人事業主含む)」には、ギグワーカーに該当する人が含まれる。新型コロナウイルス禍による失業の増加や雇用不安の高まり、副業解禁、在宅勤務の増加など様々な要因がギグワーカーの増加を後押ししている。
一方、ギグワーカーをはじめとする「新しい働き方」は従来の法制度からは取りこぼされてしまうケースが多い。現状の改善へ、政府は法や制度、ガイドラインなどによるセーフティーネット作りへ重い腰を上げた。ギグワーカーの現状と課題を検証する。
食事宅配、ウーバーは全国区に
ギグワーカーとはインターネット経由で単発の仕事を請け負う個人の働き手だ。ライブハウスなどにたまたま居合わせたミュージシャンが一度限りで演奏に参加することを意味する音楽用語「gig(ギグ)」が語源である。
ギグワーカーとして真っ先に思い浮かぶのはフードデリバリーの配達員だろう。最大手のウーバーイーツをはじめ、米国の最大手ドアダッシュやフィンランドのウォルト、KDDIが出資したmenu(メニュー)などサービスが乱立している。ウーバーイーツは2021年9月、徳島県や島根県など4県でサービスを始め、全47都道府県に進出した。
2021年5月の労働政策審議会労災保険部会では、フードデリバリーの配達員の数は約15万7000人とされている。ウーバーイーツによると2021年6月時点の同社の配達員は約10万人。menuの配達員は2021年4月時点で3万2000人と、3カ月で2割近く増えた。
食事や荷物の宅配に代表される肉体労働から、知識やスキル、ビジネス経験を生かして企業や個人から業務を受託する形態まで、ギグワーカーは多様化している。インターネットを介して働き手と企業をマッチングするサービスが普及し、ビジネスパーソンが持つニッチな知識やスキルでも需要と供給をきめ細かくつなげられるようになった。ロゴやWebサイトのデザイン、SNS(交流サイト)アカウントの運営、プログラミング、さらには営業や法務の知識などだ。