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オンラインサービスの利用が広がるなか、セキュリティーを担保しつつ信頼できるサービスを提供するため、「デジタル本人確認」に注目が集まっている。民間に様々な手法がある一方で、政府はマイナンバーカードの「公的個人認証サービス(JPKI)」を使った本人確認を広めようとしている。ただ、JPKIに二の足を踏む民間事業者もいる。JPKIの課題と普及策を取材で探った。

(写真:Getty Images)
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 2022年度中にマイナンバーカードをほぼ全ての国民が取得する──。政府はこの目標に向け、マイナンバーカードの新規取得などで1人最大2万円分のポイントを付与する「マイナポイント事業」や、健康保険証や運転免許証とマイナンバーカードを一体化させる施策などを矢継ぎ早に展開する。

 「マイナンバーカードの利用で便利になる」。河野太郎デジタル相はたびたびこうアピールしている。例えば2022年8月にはマイナンバーカードを管轄する寺田稔総務相(当時)と共に経団連を訪れ、会員企業に対して利活用を訴えた。だがマイナンバーカードを持っていても、現状では多くの人が日常で使う機会はほとんどない。

2022年8月25日、経団連にマイナンバーカードの普及と利活用の協力を要請する河野太郎デジタル相(右)と寺田稔総務相(中央、当時)。河野デジタル相は「(マイナンバーカードの本人確認機能の活用で)企業活動も便利になってくる」とアピールした
2022年8月25日、経団連にマイナンバーカードの普及と利活用の協力を要請する河野太郎デジタル相(右)と寺田稔総務相(中央、当時)。河野デジタル相は「(マイナンバーカードの本人確認機能の活用で)企業活動も便利になってくる」とアピールした
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 マイナンバーカードを日常で「便利」に使えるか。その成否の鍵を握るのが、マイナンバーカードを使った、民間事業者によるオンライン本人確認サービスである。日常的に使う民間のネットサービスで、「確かに申し込んだのが私本人である」という証明にマイナンバーカードを使えるようになれば利用シーンが飛躍的に増えるからだ。

 ただオンラインでの本人確認のルールが整備されていないため、オンラインでの本人確認サービスを提供する事業者の多くが二の足を踏んでいる。

「最高レベル」の本人確認

 政府はマイナンバーカードを使った本人確認のレベルを、運転免許証などの公的身分証を基にした対面の身元確認と同じレベルと位置付けている。「『最高レベル』の本人確認ができるので、法令の義務付けにかかわらず、多くの事業者が便利に使ってもらいたい」(デジタル庁担当者)として、最高レベルの本人確認を必要としないケースにおいてもマイナンバーカードの本人確認を使ってほしいと促している。

 マイナンバーカードを使った本人確認で使う技術は、カードの内蔵ICチップが含む「電子証明書」を活用する「公的個人認証サービス(JPKI)」である。もともとは、行政手続きなどをオンラインで安全かつ確実に行うために、国が運用し低コストで利用できるサービスとして行政機関などが利用してきた。これが公的個人認証法の改正で2016年から企業にも開放された。

図 公的個人認証サービス(JPKI)の概要
図 公的個人認証サービス(JPKI)の概要
なりすましや改ざんを防ぐ(出所:総務省の資料を基に日経コンピュータ作成、画像提供:総務省(マイナンバーカード))
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 混同しやすいポイントだが、JPKI自体はマイナンバーを使わない。マイナンバーは法律によって、行政手続きなどにしか利用できないことになっている。JPKIはマイナンバーを使わないため、行政機関だけでなく企業でもオンラインサービスなどでの本人確認に使えるわけだ。

 実際にPayPay銀行はJPKIを使っている。スマートフォンとマイナンバーカードのみを使い、JPKIでオンライン本人確認をすることで、運転免許証の写しなどを郵送したりすることなく、新規口座を開設できるようにしている。2021年10月からのサービスだ。

 ただPayPay銀行のような動きが続々と登場しているわけではない。オンラインでの本人確認手法を巡る状況は混乱し、それが普及の壁となっているからだ。「そもそもオンラインでの本人確認でどの手法を採用すればいいのか分からない」という混乱だ。