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DX(デジタル変革)の波が宇宙へと広がろうとしている。衛星データのビジネス活用からAIを生かした自律制御ロボットによる宇宙進出支援、危険な宇宙ごみ(デブリ)除去まで内容は多様だ。160兆円ともされる巨大市場を巡る、宇宙テック企業の挑戦を追う。

(写真:123RF)
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 地上からはるか400キロメートル上空の宇宙空間に浮かぶ国際宇宙ステーション(ISS)。2021年10月、船内で黙々と動くアーム型ロボットの姿があった。組み立てているのは太陽光発電パネルだ。部品を取り付け、ボルトやねじを回してはめ込み、次々にパネルを組み立てていく。

 人間が操作しているのではない。動きは全て自律制御。アームの先に取り付けたカメラで撮影した映像を基に対象を認識し、モーションプランニングと呼ぶ自律制御技術で、自動的に作業をこなす。

日本発の自律制御ロボが船内作業

 日本のロボット開発ベンチャーGITAI Japanが米航空宇宙局(NASA)などの協力を得て実施した、実証実験の様子だ。同社は2021年10月28日、宇宙用自律ロボット「S1」による汎用作業遂行技術実証について、ISSで予定していた全ての作業が成功したと発表した。GITAIがS1を全て開発し、米国の宇宙企業ナノラックスがロボットを載せたロケットの打ち上げや軌道上での運用管理などを、NASAがロボットの輸送とISS内での宇宙飛行士による設置をそれぞれ担当した。

 ケーブル・スイッチ操作の抜き差しをするタスクも実施。今までは人間にしかできなかった、手の感覚を使った微妙な作業も成功し、想定したタスクを全て完遂させた。「今までの宇宙ロボットはスイッチを押すだけだったが、今回のタスク完了で自律性汎用ロボットの限界を一気に更新することができた」。中ノ瀬翔最高経営責任者(CEO)は、意義を強調する。

 GITAIのロボットは部品をつかむ、取り付ける、ねじやスイッチを回す、カバーを開けるなど、複雑で難しい様々なタスクをこなせる自律性と汎用性を重視して作られている点が特徴的だ。従来は特定のタスクに特化した遠隔操作のロボットが主流だった。

図 GITAIが開発した宇宙ロボット
図 GITAIが開発した宇宙ロボット
人間の作業を宇宙空間で肩代わり アームの先に取り付けたカメラで周囲を自動認識し、自律動作する(出所:GITAI Japan)
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スイッチやねじを回したりケーブルを抜き差ししたりといった動作も可能だ(出所:GITAI Japan)
スイッチやねじを回したりケーブルを抜き差ししたりといった動作も可能だ(出所:GITAI Japan)
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 自律制御ロボを宇宙空間で活動させるには2つの困難を乗り越える必要があった。1つは地上から手が出せない宇宙空間という状況で、ぶっつけ本番で成功させなければいけなかった点。宇宙での活動を想定して、100回以上の実験を繰り返したという。

 もう1つは安全審査だ。NASAが求める安全基準をクリアしなければならなかった。例えばロボットの各所をワイヤで結び、破損しても部品などが飛散しないようにした。破損した部品がISS船内に浮かんで、万が一にも機体や宇宙飛行士を傷つけてしまうことを防ぐためだ。しかしワイヤを取り付けると画像認識の妨げになり、モーションプランニングが難しくなる。

 これらの困難を乗り越えられたのは「ロボットを全て内製化したため」だと中ノ瀬CEOは語る。「創業からの5年間のうち、3年をロボットの内製に費やした。オリジナルのモーターからソフトウエアまでを全て社内でつくったため、要件に合わせて柔軟な対応が可能だった」(同)。一般に宇宙産業は多数の供給企業から部品を調達し、メーカーは組み立てを担うケースが多い。ただ、自動車などと違い宇宙産業の部品は一点ものが多く、コストも納期もかさみやすい。GITAIは内製化を貫くことで、「原価やリードタイム、安全審査への対応などに効果があった」(中ノ瀬CEO)。ロボットの開発コストは1000万円程度という。