シリコンバレーはもう古い―。都内3カ所の新たな「バレー」にITベンチャーが集まり始めている。渋谷のビットバレーに商業の街・五反田バレー、そして東京大学のお膝元にある本郷バレーだ。ベンチャーだけでなく大手もIT人材を求めて拠点を置く。3大バレーの魅力を探った。
「優れたIT人材を採用するためだ」。ファッションEC(電子商取引)大手、ZOZOの子会社ZOZOテクノロジーズの今村雅幸執行役員は東京・渋谷にオフィスを構えた理由をこう話す。2018年設立のZOZOテクノロジーズはグループのIT子会社としてシステム開発や研究・開発を担い、IT技術者を中心に200人が働く。親会社のZOZOは千葉市の幕張を本拠としている。「若手を採用するにも学生にインターンを体験してもらうにも、オフィスが幕張ではIT人材を集めるのが難しい」と今村氏は言い切る。
ビットバレー
ITの世界的拠点目指す 「ガキ」から大人に成長へ
ビットバレー再び――。2018年9月10日、渋谷を本拠とするサイバーエージェントとディー・エヌ・エー(DeNA)、GMOインターネット、ミクシィの4社は「BIT VALLEY(ビットバレー)2018」と題したイベントを開催し、90年代後半に盛り上がりを見せたビットバレーを再び興すと宣言した。技術者交流会、起業アイデアのコンテストを開くとともに、渋谷区に対して民泊やライドシェアといった先進的なITサービスの実験場にするよう働きかける。渋谷区の長谷部健区長は「IT企業の活力が集まってビットバレーがまた盛り上がるのはありがたい。渋谷区との相乗効果を目指したい」と語った。
「初代」ビットバレーの熱狂が冷めた後もサイバーエージェントなど前述の4社は成長を続け、今やメガベンチャーと呼ばれる存在になった。この4社に続けとばかりに、現在の渋谷には設立1年に満たない新興企業から「20年選手」まで多彩なベンチャーが再び集う。なぜ今ビットバレーを興すのか。サイバーエージェントの藤田晋社長は「新産業を育成するにはシリコンバレーのような集積効果を狙うべきだ」と話す。特定の場所にIT人材が集まれば交流が生まれ、互いを刺激し合い、新たなアイデアやそれを実現するサービスが生み出されるといった意味だ。
「かつては金もうけや華やかな世界に憧れて集まった『ガキ』も少なくなかった。今、ビットバレーの企業に求められているのは『大人』だ」。あるITベンチャー企業の幹部はこう打ち明ける。ビットバレーは「地に足が着いた技術者中心の集まり」(藤田社長)への進化を目指している。