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米連邦預金保険公社(FDIC)は米国時間2023年3月10日、米シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻を発表した。SVBは米国のスタートアップの約半数、2022年に新規株式公開したテック企業の44%と銀行取引があった。米財務省は12日に預金全額保護を表明し、テック企業の資金繰りという短期的なリスクは回避された。

米シリコンバレーバンクのパロアルト支店前
米シリコンバレーバンクのパロアルト支店前
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 米国時間2023年3月10日午前、SVBのパロアルト支店前。15人ほどの預金者が小雨の中、落ち着かない様子で支店の前を行ったり来たりしていた。スタートアップの財務担当者だと話した男性は「9日夕方に依頼した送金が止まっている」として預金の行方を不安がる。預金額は明かさなかったが「少なくはない」と打ち明けた。カリフォルニア州サンタクララの本店でも、同様に預金者などが詰めかけた。

 SVBは米国内のスタートアップへの積極的な融資で知られる。シリコンバレーでは「ベンチャーなら何かしらの取引があるような存在の銀行だ」(Sozo Ventures創業者の中村幸一郎氏)。ベンチャーキャピタル(VC)による投資ファンド向け、スタートアップ向けの融資を得意とする。特にスタートアップ向けでは、大手銀行では与信を得られにくいスタートアップに小回りの効く融資を実行することで知られ、シリコンバレーのスタートアップエコシステムを形成するキープレーヤーの一員だった。

 SVBの資料によれば、取引先は米著名VCのアンドリーセン・ホロウィッツ、米テック企業のタブローやクラウドストライクなど錚々(そうそう)たる顔ぶれが並ぶ。

 そんなSVBの経営破綻を3月10日早朝、FDICが発表し現地では衝撃が走った。米連邦準備理事会(FRB)によれば同社の総資産は2022年末時点で約2090億ドル(約28兆円)。全米16位の資産規模を持つ。銀行破綻では2008年9月の金融危機で経営破綻したワシントン・ミューチュアルについで史上2番目の大きさ。FDICが監督する銀行では2020年10月に破綻したアルメナ州立銀行以来、2年半ぶりの破綻となる。

図 米シリコンバレーバンク破綻までの大まかな経緯
図 米シリコンバレーバンク破綻までの大まかな経緯
MBSなどの運用で抱えた含み損がSVBの急所に
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価値はスタートアップへの理解力

 SVBの銀行としての価値は、スタートアップに対する理解力と小回りにあった。スタートアップに対して、「ベンチャーデット」と呼ばれる借入資金調達サービスを提供していた。

 例えば、スタートアップが半年後に新商品の発売を控えているとする。発売の後のほうがバリュエーションは上がる傾向にあるため、資金調達は半年後以降にしたい。ただ、資金繰りに不安があり、それまでのつなぎ融資がほしい。こんな状況下で、大手銀行に融資を依頼しても、「長ければ数カ月かかってしまう」(米国スタートアップの幹部)。あるVCの幹部も「正直、スピード感で大手銀行は話にならない」と解説する。

 一方でSVBは普段からスタートアップコミュニティーで情報を収集していた。みずからリードパートナー(LP)の一員となってスタートアップ投資もしていることから、融資を求めるスタートアップに対して迅速で適切な与信評価ができる。

 スクラムベンチャーズの創業者でジェネラル・パートナーを務める宮田拓弥氏は「ファンドレイズまでの期間をブリッジするデットファイナンスに大きな価値があった」と語る。

 SVBと取引がある米国スタートアップの経営者は「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業の場合、SVB側も月々のサブスクリプション売上高がある程度見える。例えばその3倍の金額をラインオブクレジット(短期運転資金融資)として確保してくれるといったサービスを受けられた。これが経営者にとっては大きな安心感となっていた」と打ち明ける。