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厚生労働省はワクチンの流通を支援・管理するシステムを開発する。紙とファクスに頼っていた自治体や医療機関との連係は悪評を買った。ベンダー丸投げ態勢から脱した開発で行政デジタル化の試金石となるか。

 新システムは「V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)」。2021年前半にも見込まれる「国民へのワクチン接種開始までに開発を完了し、運用を始める」(厚労省健康課予防接種室)計画だ。製薬会社などから逐次供給されるワクチンの数量を基に、政府が各市区町村や医療機関への割り当て計画を立案したり、関係者が供給状況を確認・共有したりするために用いる。

 自治体や医療機関との情報共有は従来紙とファクスに頼ることが多かった。V-SYSは全国民へのワクチン接種という大きな事業で、厚生行政におけるデジタル化を占う試金石となる。

慎重な評価でベンダー選定

 厚労省は2020年3月以降、新型コロナ対策として様々なシステムを急ぎ調達した。一般競争入札が難しい緊急時に認められる「緊急随意契約(緊急随契)」を多用したが、それがツケとなる形でトラブルが相次いだ。

 V-SYSでは反省や批判を踏まえ、ベンダーの選定や態勢の構築に慎重を期したという。緊急随契といえども複数ベンダーから提案を広く募るなど、丸投げからの脱却を図ったのだ。

 具体的には、V-SYSを上流工程と後工程に分割してベンダーを選定した。大規模なシステム開発でよく使われる上流工程の支援ベンダーを採用することで、ベンダーの選定力やプロジェクト管理の質的向上を重視した。

 上流工程の調達では一般競争入札を実施し、2020年8月に野村総合研究所(NRI)を選定した。一方、開発ベンダーは緊急随契で相手を選んだものの、同年9月に複数ベンダーへ提案を呼びかけて「ほぼ一般競争入札と同様の選考プロセスを取った」(厚労省の予防接種室)という。価格も含めた複数項目で採点する「総合評価方式」に近い選考プロセスだったといい、最も点数が高かったNECを選定した。

 V-SYSはNECから提案があった、採用実績が豊富だというベンダー(非公表)のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を採用して開発を進めている。NRIとの契約金額は1億9195万円。NECが担当する開発・運用工程を含めて、政府が2020年度第2次補正予算で確保した28億円が充てられる。

準アジャイルで迅速な開発

 厚労省や政府にとって「緊急時のIT活用力が弱い」という汚名を雪辱できるかも試される。システムに求める機能が確定していない状態で、修正や作り直しを前提に「準アジャイル的」システム開発を進めるチャレンジだ。

 V-SYSの主な機能はワクチンの割り当て計画の立案だ。実際の納入状況をほぼリアルタイムで確認できるようにする。厚労省の担当者は、ワクチンの詳しい特性や流通時の条件がはっきりしない状況で開発する難しさがあるという。例えば流通時にワクチンの使用期限への配慮が必要な場合は、仕様を変えてV-SYSの機能に反映する。

 V-SYS開発に新型コロナ対策で得た教訓を生かせるか。2度目の失敗は許されない。

図 V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)の開発
図 V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)の開発
調達の改善で「緊急時のIT活用力」を高める
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