全1217文字
PR

電子契約の普及に不可欠な「トラストサービス」の法制化が見送られた。総務省の有識者会議が検討していたが、立法や法改正を提言しなかった。欧州連合(EU)は2016年に制度化したが、日本は当面、民間主体となる。

 トラストサービスとは、電子的に利用者の本人確認をしたりデータの改ざんを防いだりするサービスの総称だ。紙への押印や対面のやりとりに代わって電子契約を普及させるうえで不可欠であるとされる。総務省は2019年1月から有識者やITベンダー関係者らで構成する「トラストサービス検討ワーキンググループ(WG)」を設置して法制化に向けて検討してきたが、新たな立法や法改正を見送った。

図 総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ(WG)」の検討項目とその結果
図 総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ(WG)」の検討項目とその結果
法制化には省庁横断の取り組みが不可欠
[画像のクリックで拡大表示]

 WGが検討したトラストサービスのうち、電子文書などの作成時刻や改ざんが無いことを証明する「タイムスタンプ」に関しては、新たに国による認定制度を作って信頼できる事業者を認定する仕組みを設けるべきだと提言した。電子データを発行した企業などを確認できる「eシール」についても、信頼できるeシールのサービスを提供する事業者を認定する基準を国が作って、認定そのものは民間の団体に委ねるべきだと提言した。eシールはいわば、法人用の印鑑をデジタル技術で実現する仕組みである。

 利用者がICカードを持ち歩かなくても、サービス提供事業者のサーバーに保管した署名鍵を使ってネット上で電子署名ができる「リモート署名」に関しては、電子署名法を所管する法務省に検討を求めた。現行の電子署名法はICカードの使用を前提とする。

普及前の仕組み、法制化は困難

 WGがトラストサービスの法制化を見送る背景にあったのは、既存の法律という高い壁の存在だった。新しい立法や法改正は既存の法制度にある問題や矛盾の解消を目的にするのが通例で、eシールのようにまだ普及していない新たなITの仕組みを法制度に盛り込むのは難しいと分かったという。さらにeシールと同様の仕組みを日本で実現しようとすると、企業など法人に関わるあらゆる法制度の見直しも欠かせない。総務省だけでなく法務省や経済産業省といった省庁を含めて検討する必要がある。

 総務省がWGを設けたきっかけは欧州連合(EU)の動きにあった。EUは2016年7月に発効した「eIDAS規則」で、一定の要件を満たしたタイムスタンプやeシールなどをトラストサービスとして規定した。日本にもEUなど海外と相互にやりとりできるトラストサービスが必要とみられていた。

 政府は2019年6月~7月に開催した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で「信頼性のある自由なデータ流通(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)」を提唱し、海外を巻き込んでデータ流通や電子商取引に関するルール作りを進めている。それだけに、WGの主査を務めた慶応義塾大学の手塚悟特任教授は「トラストサービスの必要性を議論する機会はこれからもある」として、今後の法制化の動きに期待を寄せている。