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出社や移動をしなくても社員が円滑に仕事できるよう、業務の見直しが進む。ペーパーレス化やデータに基づく業務効率化など手段は多彩だ。業務のデジタル化に伴い、オフィスの位置付けを見直す企業も増えている。

 コミュニケーション不足の解消と並行して、新しい働き方の確立を目指す企業はテレワークを前提に社内の仕事やオフィスの在り方を見直している。このうち仕事の見直しでは「社内外業務のデジタル化」「データドリブンで働き方改革」「普段使いのツールをフル活用」という3つの施策が進行中だ。

請求や承認業務を電子化

 社内外業務のデジタル化に取り組んでいるのが、コニカミノルタジャパンやぐるなび、損害保険ジャパンだ。

 コニカミノルタジャパンは紙文書を扱うための出社を減らすことを狙って、2020年夏から請求書の発行業務の電子化を推進している。それまで顧客企業へ紙文書で送付していた請求書を、専用システムを通して電子署名を付加したPDFファイルの形式で発行する。顧客に対しては「テレワーク時にスムーズに業務を進められる」といったメリットを訴求したチラシを配布するなどして理解を求めたという。

図 業務のデジタル化の例
図 業務のデジタル化の例
「出社が必要」「訪問できない」といった課題を解決(画面提供:コニカミノルタジャパン)
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 ぐるなびはクラウドを活用して業務のペーパーレス化を実践する。コロナ以前から中途採用者や加盟店との契約書を電子化していたが、コロナ下では紙文書による社内の承認業務を電子化した。

 具体的には2020年10月、社内の情報を共有する米グーグルの「Google Workspace」上に、人事異動向けのワークフローシステムを構築した。承認機能の他「1件ずつ登録」「複数件をまとめて登録」など現場の業務を踏まえた機能を備える。「システムは簡易開発言語のGoogle Apps Scriptで内製した。多いときには1000以上の案件を扱う業務を、低コストで電子化できた」とぐるなびの石矢人事セクションセクション長は説明する。

リモートのプロ営業チームで提案

 損害保険ジャパンは2020年11月、グループ会社を含めた複数担当者が連携してオンラインで顧客に保険商品などを提案する「リモートプロフェッショナルチーム」の仕組みを導入した。営業担当者がオンラインで顧客対応するときに、東京の本社にいる商品開発部門などの社員も参加する。

 例えば地方拠点の営業担当者と本社の担当者が連携できるという。「訪問しての商談が難しくなっている中、スピード感をもってより深い提案ができる」と損害保険ジャパンの米山企画グループ特命課長は説明する。

データドリブンで働き方改革

 社員がテレワーク中に利用しているコミュニケーションツールの操作履歴などの情報を活用する「データドリブンで働き方改革」と呼べる動きも進む。リコーや富士通は、グループウエアクラウド「Microsoft 365」で管理するスケジュールや操作履歴といった情報を分析して、非効率な仕事を見直すきっかけにしている。

 リコーは社内でテレワークの普及が進んだ2020年6月ごろから始めている。メールの利用状況やオンライン会議の時間などを部署単位で分析して、結果をイントラネットで公開。改革につなげている。

図 Microsoft 365のデータを分析することで仕事を見直す取り組み例
図 Microsoft 365のデータを分析することで仕事を見直す取り組み例
データを駆使して非効率な仕事を捉える(画面提供:リコー、富士通)
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 例えば社内メールの利用状況を分析したところ、4割近くが送り手と受け手が1人ずつでの通信だと分かった。この場合、より短いメッセージで手早くやり取りできるビジネスチャットを使うよう呼びかけた。「チャットの活用度が高まったり、メールの件数が減ったりする効果が得られた」とリコーの浅香孝司ワークフロー革新センター所長は話す。この他、個人の作業時間を削りがちな、長時間かつ多人数のオンライン会議を極力減らすことなどにも取り組んでいるという。

 富士通もAIを組み込んだ業務内容の可視化ツール「FUJITSU Workplace Innovation Zinrai for 365 Dashboard」で、社員ごとに仕事の状況を分析している。

 富士通の森川人事戦略室室長は「見える化によって同じ部署内にいるメンバーの仕事の負荷を平準化できる」と説明する。例えばあるチームメンバーの仕事量が多い場合、リーダーはツールを使ってその内訳を把握できる。「この件は別のメンバーでもできるので任せよう」「同じような仕事をしている他のメンバーにこの件を依頼しよう」といった対策を講じることができるという。