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出社前提で存在していた人事制度も大幅な見直しが進む。テレワークを生かして場所を問わない勤務形態が生まれている。労働時間制度や社員への手当を改める動きも出てきた。

 テレワークを前提にした新しい働き方の確立に動いている企業は、「拠点によらない働き方の創出」「テレワークに即した労働時間や手当などの見直し」といった人事面の改革にも着手している。

働く場不問でキャリア形成

 拠点によらない働き方を実現するための人事制度改革はアフラック生命保険や富士通などが取り組んでいる。

 アフラックは2021年1月から、転勤なしの条件で働く社員を対象に、遠隔地にある拠点の仕事を在宅勤務などで担当できるようにする「リモートキャリア制度」を本格的に始めた。希望者は東京や大阪といった大規模拠点の多様な仕事を、地方の拠点や在宅勤務で担当するといった働き方ができる。2020年、札幌や名古屋、兵庫などの拠点にいる社員が、東京や大阪の拠点の仕事に試験的にテレワークで取り組んだところ順調にこなせたことから、2021年に本格展開することにした。

図 場所にこだわらず働けるようにする取り組みの例
図 場所にこだわらず働けるようにする取り組みの例
テレワークのメリットを生かして働き方を多様に
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 従来、転勤なしの社員の担当業務は所属する拠点などの範囲内にとどまっており、キャリアアップを図りづらいといった課題があったという。「働いている場所によらずキャリアを形成できる。リモートワークの普及もあってニューノーマルの働き方にも合致しているので、今後広く展開していきたい」と、アフラック生命保険の貫名ダイバーシティ推進部課長代理は話す。

 富士通は2020年7月以降、単身赴任を順次、解消している。可能であれば、単身赴任者が自宅に戻ってテレワークや出張で業務を続けられる施策だ。富士通の森川人事戦略室室長は「家族との生活にも考慮して、社員のウェルビーイング(幸せで健康な状態)の向上を目指す取り組みの1つだ」と話す。

 2020年10月からは「実家にいる親の介護が必要になった」「子供に専門教育を受けさせることにした」「配偶者の転勤が決まった」といった家庭の事情で引っ越しに直面した社員がテレワークで業務を続けられるようにする取り組みも始めた。「家庭の事情で会社を辞めざるを得ない」といったケースを極力なくして、継続して社員が働けることを狙った施策だ。単身赴任の解消と合わせた一連の施策で、約900人が業務を続けているという。

 ぐるなびは今後、社員の地方での勤務や、旅行先などでテレワークをするワーケーションといった勤務形態を検討している。「これまでは人材の多様化に取り組んできた。今後は生産性をより一層高めたり、企業として様々な価値を創造したりしていくためにも、場所や時間に多様性を持たせる必要がある」と、同社の小島人事部部長は指摘する。

コアタイムを撤廃、より柔軟に

 労働時間や手当などの人事制度の見直しは、富士通やヤフーなどが取り組む。富士通とヤフーは始業時間や終業時間を柔軟に決められるフレックスタイム制度を導入済みで、必ず勤務する時間である「コアタイム」を設定していた。2020年に入って新型コロナ対策で社員が原則テレワークを実施することにしたのと合わせて、コアタイムを撤廃した。

図 テレワークを中心とする働き方に対応した人事面での見直し例
図 テレワークを中心とする働き方に対応した人事面での見直し例
働く時間や手当、人事制度を見直しへ
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 富士通の森川室長は「育児や介護と仕事を両立する必要がある社員も在宅勤務を円滑に進められる」とその理由を説明する。ヤフーの金谷コーポレートPD本部長は「仕事の合間に家事などを行う中抜けも柔軟に認め、社員が在宅勤務をしやすくした」と話す。

在宅の電気代などへ手当

 テレワークの普及に伴って、一部企業は在宅勤務時にかかる費用を支援する手当なども支給している。

 例えばアフラック生命保険の場合、1日でも在宅勤務をした社員には月5000円の在宅勤務手当を支給している。通勤手当については6カ月分を支給していたのを、出勤した回数に応じた切符代の支払いに切り替えた。同社の伊庭達也人事部人事企画課長は「社員にとって不利益にならないように、通勤手当の見直しとセットで在宅勤務手当の支給を進めている」という。

 5000円という金額は、エアコンやパソコンを1カ月の就業時間分だけ使った場合を想定し、かかった光熱費や電気代をカバーできる金額かどうかを見極めるなどして設定したという。この他2020年夏には、机やイスなど社員が自宅で執務用の環境を整備するために一時金2万円を支給している。

 イーブックイニシアティブジャパンやぐるなび、日立製作所なども在宅勤務関連の手当を支給している。毎月の支給額は各社により異なるが、3000~5000円程度に設定している企業が目立つ。