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「データは経営の武器」というが、実際にそう使えているだろうか。まずデータ自身が持つ力を再確認するところから始めよう。取り組む課題や事業によって役立つデータの種類とその働きは変わってくる。

 「データは経営資源」「データは武器」と以前から指摘されてきた。IT投資に疑問を抱いた経営者が「そういう可能性があるなら」と考え直したこともあっただろう。では期待通りの結果が得られたのか。そうではないとしたら、データが持つ力の再確認からやり直そう。前回に続き、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)施策に関する取り組みから、データを武器にする事例を見ていく。各国各企業はCOVID-19という世界共通の問題に向き合い、データの力を発揮させつつある。

イスラエル:接種の結果データを提供

 COVID-19ワクチンの接種が最も進んでいるイスラエルは、いち早く手配に入り、接種の結果データの提供を前提に、米ファイザー、独ビオンテックなどからワクチン供給の約束を取り付けた。様々な集団ごとに、年齢、性別、接種前の状態、接種後の結果、副作用の有無、有効性、抗体ができるまでの時間といったデータを匿名化して製薬会社に提供する。

 データを武器にワクチンを確保するわけでデータが国の力になる。さらにこのデータは地球規模の資産でもある。ワクチン開発を急ぐ製薬会社にとって質の良いデータをフィードバックしてくれる国や地域は貴重である。イスラエル政府は「人口の6%超に接種。接種を受けた人の間で重篤な感染例は見られていない」といったように段階を追って結果を公表している。データを持ち、世界に貢献できる地域だからワクチン接種で先に進める。

 イスラエルはCOVID-19が広がり出した当初からPCR検査結果などの医療データを蓄積している。成果の一例が前回紹介した、せきや発熱などを自己申告してCOVID-19検査の結果を予測する機械学習モデルの開発だった。

米国:ウエアラブルで感染を検出

 Apple WatchやFitbitといったウエアラブルデバイスを使って無症状の段階でCOVID-19への感染を検出できる、とする研究結果が複数の大学から報告されている。米マウントサイナイ医科大学は心拍間隔の周期変動から感染を判断する研究結果を発表。米スタンフォード大学も心拍数を使った研究結果を示した。

 ウエアラブルデバイスを使うことで持続的にデータを取得、平時から観察し続け、変調を検出できるという。スタンフォード大学の教授は次のように述べた。「今の医療における問題は人をいつでも検査できないこと。スマートウォッチなら24時間365日測定し、リアルタイムでデータを送れる」。

 この取り組みのカギは質の良いデータを継続的に得られる点にある。無症状のうちに検出できれば新たな診察方式が可能になり、それを受けてデバイスを持つ人が広がり、さらにデータが集まるという好循環を期待できる。

米国:世界共通「ワクチン接種証明書」

 米マイクロソフト、米オラクル、米セールスフォース・ドットコムなどが協力し、ワクチン接種証明書の標準化団体VCI(Vaccination Credential Initiative)を設立した。接種した事実をデジタルデータとして記録し、国や地域を越えてアクセス可能にする。プライバシーを保護しつつ記録を携帯するためにデジタルウォレットアプリなどを利用。接種記録を本人が提示、あるいは相互参照することで、接種後に仕事や学業、生活へ安全に戻るという予防接種本来の狙いを達成する。

 ここでも中心はデータである。事実を記録したデータがまずあり、その上でデータを携帯し参照する仕組みが用意され、データによって表現された事実と現実の諸活動が連携していく。

米国:ワクチン証明を皮膚に印刷

 米マサチューセッツ工科大学は予防接種を受けたことを特殊な染料を使って皮膚に記録する手法を考案した。記録は肉眼では見えないがスマートフォンで読み取れる。接種記録を利用するにはVCIのようにデジタルデータを流通させるやり方もあれば、このように個人に直接記録してしまう手もある。この研究をマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏率いるビル&メリンダ・ゲイツ財団が支援している。