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デジタルディシジョニングは現場の判断をITで自動化する手法である。判断には業務ルールを使い、結果のデータを分析し、ルールを見直していく。判断のノウハウをディシジョンモデルとして記述することが出発点になる。

 IT関連の記事やインターネット上の発言を眺めていると、いわゆるDXが失敗した事例にしばしば出くわす。構図は似通っている。「これだけITに投資しデータをためてきたのだからAI(人工知能)を使って何かできないのか」と経営者が言い出す。目端の利く事業部門の担当者が手を上げ、AIに強いと自称するスタートアップと組み、データサイエンティストを雇い、プロジェクトを始める。情報システム部門や既存のIT企業は蚊帳の外に置かれ、ベテランは「同じような失敗を繰り返すのか」とつぶやき、その通りになってしまう。

 経営者が「何かできないか」と問うこと自体は悪くない。事業部門と情報システム部門が協力し、呼びかけに答えるための手法として「デジタルディシジョニング」を紹介する。

大量の判断を自動化する

 同分野の第一人者、ジェームス・テイラー氏の著書『DigitalDecisioning』が2021年7月、邦訳された(細川泰秀監修、酒匂秀敏・津島靖彦訳、コンテン堂)。それによると「繰り返し操作可能な小さなディシジョン」を「コンピューターが自動的に下した」ことをデジタルディシジョニングと呼ぶ。例えば大量の「顧客対応や取引の仕方」についてのディシジョンをITにさせる。つまり現場の判断の自動化である。IT分野でディシジョンは意思決定と訳されることが多かったが、経営者や幹部の決定を支援する話ではない。

 デジタルディシジョニングの仕組みはITそのもので、ディシジョンサービスと呼ぶ。テイラー氏は著書で「ディシジョンを特定し、モデルにする」「ディシジョンサービスを定義し、実装する」「ディシジョンを計測し、改善する」という3段階で説明している。

 まず件数が多く、しかも人間が判断している処理(タスク)を見つける。テイラー氏の書籍を翻訳した酒匂秀敏氏(デジタルディシジョン合同会社代表社員)によれば「いわゆるルーチン業務、例えば承認と却下、不正検出、査定や判定、個人サービス対応、顧客の判別などに向く」。

 次にその処理をこなしているベテランや専門家からどのように判断しているのかを聞き出し、ディシジョンモデルとして表現する。例えばある疾病の発症リスクを判断させる場合、日々の活動、血圧、肥満度、血糖値などのスコアを組み合わせてリスク度合いを算定するモデルをつくる。IT関連の標準化団体OMG(Object Management Group)が定めたDMN(Decision Model and Notation)という表記法を使うことが多い。ある入力に対し判断をして結果を出力する、といった形式で記述する。「1日程度トレーニングすればベテランや専門家が経験に基づくノウハウを記述できる」(酒匂氏)。

 DMN表記のモデルからコンピューター上で実行できるソフトウエアを自動生成するエンジンが製品として既にあるので、どういう入力データをどこから持ってくるかを決め、エンジンに渡せば入力に応じて自動的に判断するディシジョンサービスを実装できる。

 さらに判断結果をデータとして蓄積、分析し、自動判断の精度や事業における効果(利益増など)を測る。これが「ディシジョンを計測」することである。計測結果に基づいてモデルを改良し、判断の精度を高めていく。「結果データを読み込み、当初設定したルールと同じ形式で新たなルールを自動的に抽出してくれるソフトウエアが製品としてある」(酒匂氏)。新ルールを使った結果を当初ルールによる結果と比較し、判断の精度が上がった場合、ルールを差し替える。

 以上の仕組みは古くはエキスパートシステム、ビジネスルールマネジメントシステムと呼んでいた手法の発展形である。進んだのは、モデルから動くサービスを自動生成できる、結果データを機械学習で分析しディシジョンモデルを改良できる、といった点だ。