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米アマゾン・ドット・コムは顧客に新たな体験をITで提供し続ける。同社の歴史は小売産業の変革そしてIT利用の革新の歴史と言える。顧客第一という創業以来の方針をベゾスCEOが堅持したことが大きい。

 創業者のジェフ・ベゾス氏が2021年第3四半期にCEO(最高経営責任者)を退くと発表した米アマゾン・ドット・コム。同社はデジタルネーティブな小売業(ITを前提にした小売業)である。

 1994年に書籍のEC(電子商取引)企業として創業して以降、取扱商品を拡大。18カ国でサイトを運営し、世界各地175カ所超に物流センターを構える。サブスクリプション事業「アマゾンプライム」と合わせて動画、音楽、ゲームを配信、「Netflix」「Spotify」などと競合する。クラウドサービスAmazon Web Services(AWS)はシェア首位を占め、国内で「第2期政府共通プラットフォーム」に採用された。AWSは利益の6割を稼ぎ、GAFAの1社として世界有数のIT企業となった。

 とはいえ売上高では世界最大のEC企業であり2020年発表の2018年度小売業ランキングで世界第3位に付けた。2020年通期売上高3860億ドルのうちECと実店舗を合わせた直販の比率は55%、マーケットプレイスと呼ばれる間接販売を足すと76%。AWSは12%、サブスクリプションは7%。AWSは本業のECで使う技術を公開したもの。開発・買収する技術は本業にまず適用する。

 新たな顧客体験を考案し続け、実現にITを使い、「地球上で最もお客様を大切にする企業を目指す」。創業来のこの姿勢は企業買収にも共通する。

顧客重視の小売業を買収

 2020年11月、アマゾンは医薬品のEC「アマゾン・ファーマシー」を始めた。2018年に買収したオンライン薬局ピルパックが基になっており、処方薬を服薬単位に包装し、服薬日時を印刷するなど使い勝手の良い体験を提供する。今後、処方薬以外との組み合わせや介護サービスとの連携まで一貫したサービスに広がっていく可能性がある。例えば服薬単位の包装に合わせて薬と関連する商品をアマゾンで購入できれば利用者からすると自然である。

 利用者の立場を考慮し、データを駆使したサービスを提供するアマゾンはヘルスケア分野と相性が良い。アマゾンの従業員がモバイルアプリを介してプライマリーケア(初期診療)を受ける「アマゾン・ケア」を試行中だ。

 本業を拡大するためにアマゾンは品ぞろえやサービスで顧客から評価の高い小売業を買収してきた。常に買収各社の特徴をECに取り込み、買収企業の事業にアマゾンの技術を適用している。2017年にはオーガニック商品を手掛けるスーパー、ホールフーズ・マーケットを買収。今では2時間以内に商品を届ける「プライムナウ」サービスを使ってホールフーズの商品が届けられる。2009年には顧客応対に定評があった、靴のEC企業ザッポスを買収。ザッポスの返品の仕組みをアパレル販売などに応用してきた。

 技術を生かした実店舗も展開する。ECの売れ筋を並べる「アマゾンブックス」、ECで高評価(四つ星)を得た日用雑貨などを扱う「アマゾン4Stars」、レジレス店「アマゾンゴー」など。プライム会員は状況に応じてECまたは実店舗で商品を購入し、決済や履歴をEC上で参照できる。ネットと実店舗の境目がない利用体験を提供する。