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成功したSaaSから企業情報システムの新形態を学べる。視点を事業に当て、必要な社内外の処理を連携させていく。狭い範囲でも濃い効果を提供すれば利用者の満足を得られる。

 株式公開に苦しむスタートアップが複数出る中、赤字が続く状態でしかも公募価格を直前に引き上げたにもかかわらず公開時の価格が公募価格を上回った成功例が出た。2019年12月に米ニューヨーク証券取引所へ上場した中小企業向け決済処理サービスのBill.comである。同社は中小企業が支払業務を簡便にできるSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を提供、1カ月240万件以上の請求書承認を処理している。効果が分かりやすいサービスを確立し、顧客から支持を集めている点が株式市場から評価された。

 同社を取り上げる理由は、特定の事業に視点を当てて組織内外で必要となる業務を設計し、それらを一貫処理する、という企業情報システムの新形態を示しているからである。事業の対象である顧客や取引先は組織外にいるが従来システムは組織内の処理が主で一貫処理を担えず手作業が残っていた。

 つまり事業とICT(情報通信技術)が一体になって生まれる新たな業務プロセスへの期待がBill.comへの高評価の背景にある。そうしたプロセスを合理的に実現するのがBill.comのようなクラウドならではのサービスである。「当社もデジタル化せよ」と言ってくる社長がいたとして情報システム責任者が何らかの答えを返す際の参考になる。

外向きと内向き、両システムを統合

 Bill.comは中小企業に的を絞り、請求書の保存、承認、支払い、会計システムとの同期、といった一連の業務を一気通貫で処理する。利用企業は取引先から届いた請求書をBill.comに転送するだけでよい。pdfなど電子版の請求書であれば操作画面上でドラッグ&ドロップすれば済むし電子メールに添付して送ってもよい。Bill.comが請求書を保存し、利用企業の承認者が持つスマートフォンなどに承認依頼を送る。承認後、Bill.comが金融機関に対して支払処理をし、利用企業の会計システムに結果を登録してくれる。同社はマスターカードとの戦略提携に加え、多くの金融機関と連携している。

 企業は従来、請求書を紙のまま承認者に回し、承認後、経理部門が金融機関へ支払い、会計システムに入力していた。処理の大半を人手に頼り、確認が欠かせない上に、諸連絡に電子メールなどが介在するため、処理がどこまで進んでいるかを把握しづらかった。

 支払いという狭い領域に特化しつつ一連の処理を自動にする濃いサービスを提供するために、Bill.comは請求書データの自動読み取りや自動入力、自動精査などに機械学習を取り入れ、処理精度を高めた。金融機関や主要な会計システムとはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介してつなげる。連携処理の開発者向けキットも用意している。

 中小企業はBill.comを使うことで、金融機関との連携など外に向いた業務、会計など社内業務、承認者とのやり取りなどオフィス内のコミュニケーション、以上3点の業務とそこで必要な情報システムを連携できる。支払いに着目してみると3点を統合した業務プロセスのほうが自然だと分かる。