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DX(デジタルトランスフォーメーション)もシステム構築もゲームである。勝つためにはゴールや作戦について考え抜く。必要ならルールを変える。IT部門やIT企業が視野を広げ、ゲームチェンジャーになることが期待される。

 「企業であればライバル企業との競争、国家であれば他国との競争がついてまわる。いずれもゲームであり、勝つための姿勢が問われてくる。本報告書で展望したテクノロジー群はゲームを変える(中略)可能性があるものだが、企業や国家としてテクノロジーにどうかかわり、ゲームにどう対処したらよいだろうか」。

 上記は日経BP 総合研究所未来ラボがまとめた『未来技術2023~2032 全産業編』に含まれている「ゲームに勝つ姿勢」(著者はテクニカルライターの井上孝司氏)という報告からの引用である。井上氏はIT、航空、軍事、鉄道などのテクノロジーに詳しい。『未来技術』は未来を変える可能性を持つ技術をIT、エレクトロニクス、メカトロニクス、材料、バイオテクノロジー&ライフサイエンス、航空・宇宙といった領域から探した報告書である。

 ゲーム(game)をウェブスター辞典で引くと“a physical or mental competition conducted according to rules with the participants in direct opposition to each other”または“any activity undertaken or regarded as a contest involving rivalry, strategy, or struggle”などと出ている。

 企業の活動は一定のルールに基づく競争であり、戦略が必要だからゲームの一種と見なせる。事業を変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)も、企業情報システムの利用もゲームであり、「ゲームに勝つ姿勢」における次の3点の指摘は有用である。

挑戦
・正解はないから自分で答えを見つける
・ゲームのルールから変えることもある

考え抜く
・ゴールをはっきりさせる
・作戦コンセプト(CONOPS、Concept of Operations)を明確にする

視野を広く
・状況の変化や技術の動向を見ておく
・ハードウエアとソフトウエアの両方を考える

「ちゃぶ台返し」を考える

 「洋上の脅威を察知するために無人偵察機を導入」という例を井上氏は引いている。「偵察機を飛ばして得られるデータを整理・分類・集計・解析して、実際に行動を起こす際の意思決定に役立つような情報資料を継続的に生み出す仕組みを整備しなければならない」。

 こう考えると「そもそも何を偵察できたら有利になるのか、という議論になっていく。(中略)新たな偵察というゲームを定義することになるかもしれない」。

 テクノロジーの進化で偵察というゲームのルールを変えられるのであれば、いち早くその答えを見つけたほうがゲームに勝つことになる。

 自動車の電動化という「ちゃぶ台返し」も環境問題への対策であると同時に、ゲームのルール変更と考えられる。「電動化が進めば素材供給の面で図式が変わる。小型軽量・高出力の電動機を実現するために希土類磁石が不可欠になれば、レアアースの供給源を持っている国が有利になる。自動車の製造においても運用においても、安価で豊富な電力供給源を持っている国は有利になり、持っていない国は不利になる」。

 ルール変更を含む新たな答えを見つけるためには考え抜くしかない。まずゲームに勝つとはどういうことか、「ゴールをはっきりさせる」。DXや企業情報システムの場合、どういう姿になれば勝てるのかを関係者が集まって議論する。

 DXを通じて新事業を始めるにせよ、新たな企業情報システムを導入するにせよ、「これが欲しかった」と顧客や利用者に言ってもらえる事業やシステムを考案する必要がある。顧客や利用者と対話し、悩みや要望を聞くことは大事だが、要望通りにすれば悩みを無くせるとは限らない。