米IT企業が新型コロナウイルス対策を打ち出している。データ起点の見える化と共有(シェア)の仕組みが使われる。一連の動きから新たなリテラシーの定着が感じとれる。
ICTが社会にもたらす変化について様々な名称が付けられてきた。直近では「デジタル化」あるいは「デジタルトランスフォーメーション」であろうか。変化を理解し、ICTを使って変化を進めていける力を「デジタルリテラシー」と呼ぶことにする。この定義から分かる通り、ICTを利用するだけではなく、それがもたらす変化を実感していなければリテラシーがあるとは言えない。
変化を産業ごとに展望した報告書『メガトレンド2020-2029 ICT融合新産業編』を日経BP総研は発行し、ICTによる新たな社会基盤が創出され、その上で産業の変化が起こると述べた。「みえる」(可視化)、「つながる」(人や組織の連携)、「ぶつかる」(可視化や連携がもたらす摩擦とその解消)といったことが起こり、産業を変える。
新社会基盤は新産業を生む一方、社会に危機が迫った際、社会を守ろうとする。新型コロナウイルスに米IT企業が採った対策を見ると米国社会のデジタルリテラシーを感じられる。以下の事例選択と着眼点の指摘は『ICT融合新産業編』の共著者、札幌スパークルの桑原里恵氏によるものである。
データ起点による可視化を促進
「みえる」ようにするために、データを起点にして考え、データを集めていく。米ジョンズ・ホプキンス大学はWHO(世界保健機関)、中国の関連機関、医師のコミュニティーなどからデータを集め、新型コロナウイルスの症例数、死者数、回復者数を表示するウェブサイトを用意した。このサイトにオープンデータや各種データを組み合わせ、時差を極力少なくして事実を伝えるサイトが次々に登場している。
例えば広い層による施策の実施に向けたデータ活用を支援するために米タブローソフトウエアは「データリソースハブ」を用意し、ジョンズ・ホプキンス大学のデータを利用しやすくした。より正確なデータを分析し、届けるために、米IBMは子会社の米ウェザー・カンパニーが運営するサイトを通じて、気象情報に基づくローカルな地図の上にコロナウイルスのトラッキング情報を重ねて提供する。
さらに抜本的な対策にデータを駆使するため、米政府、研究機関、IBM、米アマゾン・ドット・コム、米グーグル、米マイクロソフトらが協力し、「COVID-19ハイパフォーマンスコンピューティングコンソーシアム」を発足させた。330ペタFLOPSの処理能力を提供、治療法の研究開発に役立てる。
「つながる」取り組みも数多い。共有(シェア)というデジタル化における活動様式をそのまま取り入れ、米コロンビア大学はクラウドファンディング企業、インディーゴーゴーを介して、4時間で結果が分かるという新型コロナ検出キットの生産を拡大するための資金調達を呼びかけた。
WHOや米フェイスブック、マイクロソフトらは「COVID-19グローバルハッカソン」を3月末に開催、遠隔医療や感染者追跡、仕事や収入が無くなった弱者支援といった分野ごとにアイデアと解決策を参加者に競わせた。