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単一のアプリケーションが社会基盤の中核を担える時代が来た。典型例がモバイルメッセージングの「WhatsApp」である。世界最多の利用者と企業がやり取りできるビジネス機能を育てた。

 ICTによって新たな社会基盤が創出され、産業の変化が起こる。日経BP総研はその変化を展望し、『メガトレンド2020-2029 ICT融合新産業編』と呼ぶ報告書をまとめた。社会基盤とは、デジタル機器を介した人々や仕事のつながりと、そこでやり取りされる情報が一体となった状態を指す。

 単一のアプリケーションが中核になる場合もあり、その代表例が米フェイスブックのモバイルメッセージングアプリ「WhatsApp」である。個人向けのWhatsApp Messengerに加え、企業が個人とやり取りするWhatsApp BusinessやAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を用意、コミュニケーションのツールにとどまらず、多様なビジネスサービスを支える役割を果たしている。

 個人は普段使っているWhatsAppと同じ操作でビジネスサービスを利用できる。企業はメッセージングに加え、データ分析、AI(人工知能)といった機能を使い、新たな販売の仕組みや社会サービスを生み出せる。

 「WhatsAppなら使い方を誰でも知っている」という認識ができ、EC(電子商取引)や旅行など消費者ビジネスと行政がそろってWhatsAppを使う。新社会基盤が形成され、社会のICT利用が進み、情報リテラシーと危機を含めた変化への即応性が高まっていく。

 経営者やシステム責任者が事業創出や業務変革を考える際には、社会基盤を担うアプリケーションの価値を直視し、理解してから自身の取り組みを発想することが欠かせない。ビジネスは社会と共にあり、同時にICTが支える社会基盤と共にある時代が来ている。

 以下の解説と事例選択は『ICT融合新産業編』の共著者、札幌スパークルの桑原里恵氏によるものである。

インドの新事業を支える

 WhatsAppは20億人超と世界最多の利用者を抱え、欧州、南米、インド、アフリカでよく使われている。中でもインドのWhatsAppの利用者は4億3000万人を超え、ほぼすべてのスマートフォン保有者がWhatsAppを使うと言われる。インドにおけるWhatsApp上のビジネスを3事例、紹介する。

Digi-Prex:慢性疾患患者向けオンライン処方薬局。患者が処方箋をWhatsAppから送信するとDigi-Prexが定期的に薬を患者に送る。医薬品販売業者と直接提携し低コストで配達する。薬の購入時期を患者が気付けるようにしたり、薬の改善効果を確認したりできる。医師や薬局と協力し、患者の利便性を高めることを狙う。

Vahan:労働者と物流のマッチングサービス。商品配達に携わる労働者約20万人の雇用創出を支える。インドでは村から都市に移住して数カ月間働き、次の収穫期に故郷に戻る周期的な移住現象がある。この中で配達に興味を持つ候補者に向け、WhatsApp上の機械学習を使ったチャットボットが一連の質問を自動提示し、スクリーニングと認証を数分で終える。食品配送、コンシェルジュサービス、物流などの企業が利用している。

Meesho:販売者と顧客をWhatsAppで結び付けるオンラインマーケットプレイス。アパレル、家電製品、電子機器を主に扱い、200万人以上の再販業者のネットワークを形成する。利用者の8割は女性。再販業者の大半は主婦でMeeshoを使うために初めてスマートフォンを購入した人が多い。主婦就業という貴重な機会を作り、女性のインターネット利用を後押しする。