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「アプリケーションで個人の行動を追跡するなら利用者の許諾を得よ」。米アップルが今春からアプリ提供者に義務付けた新ルールである。合理的な追跡の必要性を利用者に示し、納得を得る責任が提供者にある。

 「このアプリケーションにあなたの行動を追跡することを許可しますか」。3月末からiPhoneのアプリを開くとこうしたメッセージが出るようになってきた。米アップルが利用者のプライバシー保護のために要請した新ルールにアプリ提供者が応えつつあるからだ。

 新ルールとは、アプリで利用者の行動を計測し追跡する機構を使用する場合、利用者から事前に許諾をとる(オプトイン)ようにしたことを指す。基本ソフトiOS 14の出荷を機にアップルがアプリ提供者に義務付けた。

 アップルは利用者を匿名にしたままで複数のアプリをまたがる利用を追跡し、一連の行動をデータにできる識別子「IDFA」を用意している。だが許諾を得ない限りIDFAのデータはブランクとなり、ある行動をした利用者に広告を送るといったことはできない。

 行動データの計測と追跡に同意を求めるポップアップメッセージと管理機構をアップルは用意した。メッセージ画面をどこに入れるのかはアプリ提供者に任される。

 利用者は少しでも不信感を持てば許諾を拒否するし、迷ったら拒否を選ぶことが多いからアプリ側に相応の工夫が求められる。なによりもまず、行動追跡やデータ収集がアプリの利用価値に直結していなければならない。その上でアプリ提供者は集める理由を利用者に説明する。メッセージ画面の文章だけで意図を伝え、利用者の納得を得るのは簡単ではない。そこでメッセージ画面の前に独自の説明画面を入れる工夫を施したアプリが登場している。

 例えば米フェイスブックは利用体験の充実に行動追跡とデータ収集が必要になると説明する画面を用意し、そこからメッセージ画面へ遷移するようにした。アップルの新ルールは中小企業の販促に打撃を与えるとしてフェイスブックは強く反対してきたが、一方でプライバシー保護に取り組む姿勢を打ち出し新ルールにいち早く対応した。

プライバシー情報を巡る新たな原則

 アップルの新ルールは2020年6月のWWDC(世界開発者会議)で公表され、2021年春から適用を始めた。アップルは1月27日に「この要請(新ルール)は早春、iOS 14のリリースと共に適用される」と発表していた。

 同じWWDCでアップルはアプリの利用で生じるデータをどう扱うかをアプリ提供サイトAppStoreの紹介画面に明示する「プライバシー情報セクション」を発表、アプリ提供者に記載を要請していた。プライバシー情報セクションの適用は新ルールに先がけて始まっている。

 IDFA利用の新ルールとプライバシー情報セクションは対になる施策だがアプリ利用に伴う情報の扱いを巡る原則がみてとれる。アップル以外の仕組みを使う場合でも利用者とアプリ提供者は次の原則に従う時代に入った。

  • アプリの利用で生じたデータは利用者のものであり、その扱いは利用者が自らの価値観によって主体的に決める
  • アプリが信頼できるかどうか、データを提供するに値するかどうかも利用者が評価し、判断する
  • データを利用したいアプリ提供者は自らの責任で利用者から信頼を得て許諾をとらなければならない
  • 信頼を得るためにアプリ提供者はデータが利用価値の最大化に必要であることを説くとともに、データの管理や運用体制を明示する必要がある