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顧客に新たな体験を提供する、これはITの有力な使い道である。消費者、企業、仲介者がつながり、一種の社会基盤になる。危機への対処によっても体験は変わり、社会基盤を進化させる。

 「顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)」あるいは「ものづくりからことづくり」を経営課題に掲げる経営者がいる。後者の「こと」は体験を指すからどちらも同じ課題になる。新たな体験を顧客に届け、進化・深化させていく。新型コロナウイルス禍のような社会問題が発生すると、それに対する施策が打たれ、さらに変化した顧客体験が事態の変遷と共に広がっていく。顧客体験を作り、変えていくためにICT(情報通信技術)は有用であり、情報システム責任者が検討すべき事項の一つである。

 実例として本連載の160回でも紹介した買い物代行サービス大手、米インスタカートを見てみよう。消費者がスマートフォンやPCから買いたい食料品や日用品を発注すると、インスタカートと契約した「ショッパー」と呼ばれる担当者が買い物を代行し、その日のうちに消費者の自宅に届ける。購入代金やショッパーへのチップはクレジットカードで支払う。

 新型コロナの影響で外出が制限されたため、このサービスへの需要が激増、同社は30万人のショッパーを新たに採用すると2020年3月に発表した。

店でしか買えない商品を自宅で購入

 インスタカートが消費者から受け入れられたのは、実店舗だけで販売し、EC(電子商取引)を自ら手掛けない、個性豊かな小売業の商品を店舗に行かずに買え、最短1時間で届けてもらえるという新たな体験を提供したからである。必要なら複数店舗をショッパーに回ってもらえる。注文を出すとインスタカートが発注者の自宅近くにいるショッパーを探し、買い物代行を頼む。

 インスタカートは在庫を持たず、会員制倉庫型卸・小売りのコストコや、薬局・コンビニエンスストアのCVS/ファーマシー(CVS)といったチェーンと提携している。消費者は発注画面からコストコやCVSの商品を選べる。小売業にとってはインスタカートが新たなチャネルになる。

 販売実績などのデータをインスタカートが提携先の小売業に渡すので、小売業は品ぞろえや商品開発に生かせる。コストコはインスタカートのショッパー向けの専用レジレーンを用意し、速やかな買い物と梱包を可能にしている。食品スーパー大手、米ホールフーズ・マーケットもインスタカートと組み、専用レジを用意していた。ただし、米アマゾン・ドット・コムが2017年8月、ホールフーズを買収、アマゾンのECに組み込んでしまった。