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米ビザや米マスターカードは即時決済など新分野で新興各社と提携を進める。自身の強みと課題を明確にして不可欠な技術を用意し、本業を自ら再定義する。変わらなければ新興各社やアマゾンなど社会基盤の担い手に後れを取る。

 海外の報道で“アンダーカット”という言葉をしばしば見かける。競合より先に未来を見通し、技術を駆使、異なるやり方で一気に市場を塗り替えていくことを指す。F1レースの際、タイヤ交換で優位に立つ作戦をアンダーカットと呼ぶそうで、それを転用した。

 アンダーカットが頻発する産業として金融サービスがある。決済や送金、顧客との接点といった要素にデジタル技術を使い、担い手の役割分担が変わると共に、特定の要素を狙ったフィンテックと称される多様なサービスが生まれていく。API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介して多様な事業者と金融データを連携させるオープンバンクは一例だ。

 既存の有力企業はどうすべきか。今後の社会を展望し、自身の位置と力を見直し、足りない技術があれば手に入れ、新たな位置におけるプラットフォームになり、新興勢力を巻き込み、未来においても不可欠の存在になる。有力企業だからこそできるアプローチ、これもアンダーカットと言える。

 さらに米アマゾン・ドット・コムなど社会の基盤を担う異分野のプレーヤーとの競争や協調も起こる。社会の将来を考えるにあたっては、業界や従来の機能的な役割による境界を当然、越えていくことになる。

 こうした動きは2022年4月26日付の米ビザの決算発表を見るだけでも顕著である。ビザはデジタル化した決済・支払市場の獲得に取り組んでいる。ここでいう市場は個人、店舗、企業、金融機関、政府にまたがり、しかもクレジットカードを超えたものになる。ビザはクレジットカード事業者からデジタル決済プラットフォームの提供者へと自身を再定義したわけだ。

強みを生かし、不可欠な技術を入手

 利益が市場予想を上回る四半期決算を発表したビザのアルフレッド・ケリーCEO(最高経営責任者)は今後の成長戦略として、フィンテック各社と組むと述べ、複数の例を挙げた。

 ビザの強みをビザ以外の第三者サービスに提供する決済プラットフォームVISA Directに関して次々に協力関係を結び、自身の再定義に不可欠な技術を入手した。強みは世界の金融機関を結んで決済するプラットフォームの運用力とクレデンシャル(認証と不正防止の技術)である。ギグワーカー向けフィンテックであるカナダのペイフェア、時差無し送金を手掛ける米ペイオニアといった成長を続ける新興企業がVISA Directを選んだ。ペイオニアは事業の中核にVISA Direct Payoutsを据える。Payoutsはビザが米マスターカードに競り勝ち、2019年に買収した英アースポートのリアルタイム決済技術に基づいている。

 アースポートのAPIを介して世界各行の口座間で決済ができる。このためVISA Directはアースポートの決済ネットワークと従来ネットワークの両方を使える。つまりVISAカードの利用者に加え、新興勢力のサービスを使う利用者もDirectで支えられる。

 オープンバンクにも取り組む。ケリーCEOは2022年3月に買収したスウェーデンのティンク(TINK)を挙げた。TINKアプリの利用者は財務情報の一元管理などができる。ビザの強みとTINKのAPIが一体になり安全性と信頼性が高まる。

 同様の戦略は米マスターカードにもみられる。米イーベイらが使う国際決済サービスAdeyen(オランダのアディアン提供)はマスターカードのAutomatic Billing Updater(自動請求アップデータ)APIを使い即時送金する。マスターカードは2022年4月、認証関連技術に米マイクロソフトの不正検知技術を組み合わせると発表した。