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社会の危機に際し、企業ができることがある。対策を掲げ、競合とも組み、走りながら実践の場を整えていく。ITがもたらす社会基盤を活用すれば対策を素早く進められる。

 SDGs(持続可能な開発目標)など社会課題の達成と企業の役割がしばしば語られるが社会の危機に対してはどうか。新型コロナウイルス感染拡大を防ごうと企業は在宅勤務とそれを支えるIT利用を進める一方、中止や延期を含めた各種案件の見直しと資金確保を急ぐ。生き残らなければならないが、市場シェアや有力技術を持つ企業であれば危機に正面から立ち向かうことも求められる。

アップルとグーグルの正面突破作戦

 例として米アップルと米グーグルが2020年4月10日に発表した、新型ウイルス感染者との接触を把握する技術の開発を挙げる。ある人が別のある人と一定時間近づいたことを互いのスマートフォンに記録し、感染者が出たとき他の接触者にそれを伝える。この仕組みをスマートフォンのOSを改良し、プライバシーを保護しつつ実現する。

 iOSとAndroidの双方に手を入れ、異機種間でデータ連携を可能にし、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開、各国の保健機関に接触把握アプリケーションを開発してもらう。数カ月後には接触把握の機能をOSに組み込む。そうなればアプリケーションをいちいち入れなくてよい(仕組みを利用する意思表示は必要)。

 感染速度が衰え、経済活動が再開される前にこの仕組みを用意する。保健機関あるいはOSメーカーのいわば「純正アプリ」を提供、利用者から信頼を得る。スマートフォンで競合する両社が組み、OSまで変えることで本気度合いを示し、OSのシェアのほぼすべてを押さえる両社の展開力を生かす。

 この正面突破作戦には覚悟がいる。大量のアプリケーションが両OSで動いているしプライバシーやセキュリティーに関して政府当局から規制を受けて調整してきた経緯があるからだ。

 発表内容を見よう。iOSかAndroidを搭載したスマートフォンの中に、感染者と接触したかどうかを把握するためだけに使うキーデータを発生させる。一定時間接近したスマートフォン同士でBluetooth信号の強度と接近した相手のキーを記録する。感染したと分かった人がその旨を報告すると14日間に接触したとみなされる人のスマートフォンに通知が届く。位置など個人の特定につながるデータは一切使わない。

 Bluetoothを使った感染対策アプリケーションが既に登場していたが、アップルとグーグルが各OSにプライバシー保護の仕組みを入れており、アプリケーションからではデータを連携しづらい点があった。

 アップルとグーグルは4月24日、5月4日と発表を続け、当初発表に寄せられた意見を構想に反映するとともに、この仕組みを使うガイドラインを提示した。プライバシー保護をさらに強固にするため、スマートフォンを識別するキーデータの発生方法の変更と通信データの暗号化を発表した。

 両社の発表を受け、各国政府も動いている。アプリケーション開発は保健機関に限ることになったので日本政府は開発運用の所管を厚生労働省に替えた。これまでは官民合同会議「テックチーム」が主体だった。