決済支援の米ストライプは炭素除去の技術開発10件を選び、資金を援助する。数百万社もの顧客が簡単に開発案件へ寄付できる仕組みも用意した。本業の情報システムと顧客基盤を生かし、炭素除去に資金がまわる道を開く。
社会問題の解決に技術は貢献できるがそのためには技術を研究開発し、現場に適用、成果を上げ、さらに改良していくための資金が不可欠である。この資金需要を少数の支援者だけでまかなうのは難しいが、何らかの事業でインターネットを介して結びついている数多くの企業や事業者が少しずつ資金を拠出すれば可能性が開けてくる。その典型例を紹介する。
2010年に創業し、決済支援サービスStripeを提供する米ストライプは2021年2月、炭素除去技術の開発と実践を支援する仕組み「Stripe Climate」を全世界の顧客企業が使えるようにしたと発表した。Stripeを使うEC(電子商取引)企業などは決済額(売上高)から一定額を炭素除去企業に寄付できる。すでに世界37カ国で2000社以上が賛同したという。
これに先立ってストライプは学識者の意見を基に炭素除去の技術開発を手掛ける企業や団体を選び、除去された炭素の「購入」、すなわち資金供与を自ら進めてきた。2021年5月には6件を追加し、計10件の取り組み状況を公開、Stripe利用企業が寄付の可否を判断できるようにしている。
炭素除去市場を成長させ維持する
Stripe Climateの責任者は目標を明確に語っている。「私たちの目標は炭素除去(カーボンリムーバル)のための大きな市場を作ること。成功すればこの市場は低コストで永続的な炭素除去技術の利用を加速し、気候変動の最も壊滅的な影響を回避するために必要なソリューションのポートフォリオを世界が持つ可能性を高める」。
ソリューションのポートフォリオとは有効な炭素除去技術群を意味する。大気中の二酸化炭素を直接回収し、地下などに貯蔵する技術を指す。DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)と呼ぶこともある。炭素除去は事業体における二酸化炭素の排出と回収を同量にする、カーボンニュートラルを達成するための具体策である。回収量が排出量を上回るカーボンネガティブを狙う米マイクロソフトもDACに取り組むと表明している。
マイクロソフトのような超大手企業ではなくても炭素除去に貢献できる道をStripe Climateは開く。「Stripe上で実行されている数百万ものビジネスは全体として炭素除去にかかわる市場の成長と維持に貢献できる」とStripe Climate責任者は期待する。数百万はStripeの顧客数である。
炭素除去の技術開発に賛同したStripe利用企業は例えば「決済額の1%を寄付する」と指定するだけでよい。1%に相当する金額をストライプが炭素除去に取り組む企業に送金する。日々発行する請求書や領収書には炭素除去への寄付を示す印を表示する。寄付の手続きは1分間で済むという。
寄付の判断をしやすいように10案件について購入基準の詳細、開発状況、技術情報をGitHub上に一般公開している。さらに気候変動対策のデータ分析を手掛ける米カーボンプランと組み、10案件の透明性と科学的完全性を検証していく。