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「創造の方法」を使える、これがビジネスとITを結ぶ人材の必要条件である。課題の原因と結果について仮説を立て、データを集め、検証することを指す。この方法を体得するには仮説と検証結果を文章に書く訓練が本来欠かせない。

 ビジネスアナリシス(BA)の普及に取り組むカナダの非営利組織IIBA(International Institute of Business Analysis)は2022年6月1日からECBAと呼ぶ資格試験を日本語で受けられるようにした。ECBAのECはEntry Certificateの略で、ステークホルダー(利害関係者)と話し合い、要求を整理、ビジネスを設計していくBAの基本知識を問うものだ。

 IIBA日本支部はECBAの意義として2点、ITプロフェッショナル(新人も可)がビジネスの視点を養う、事業部門の管理職がITを使ったビジネスを促進するスキルを身に付ける、を挙げている。例えばAI(人工知能)を使い、CX(カスタマーエクスペリエンス)やDX(デジタルトランスフォーメーション)といったビジネスの革新に取り組む場合、BAの知識とスキルがIT側、事業部門側の双方に求められる。

 BAの実践にあたって前提となる思考がある。IIBAは知識体系「BABOKガイド」をまとめ、「基礎コンピテンシー」という知識エリアで「分析的思考と問題解決」の力が必要と述べ、創造的思考、システム思考、概念的思考、問題解決、意思決定などを挙げている。

40年前に指摘された方法

 こうした思考がBAに限らず、ビジネスで必要だと何年も前から言われてきた。だが「習慣にしている人はまだ少ない」と、デジタルディシジョンの酒匂秀敏代表社員は指摘する。酒匂氏はビジネスルールエンジンを使ってCXやDXを支援しているがルールを組み合わせて意思決定のモデルをつくるところで苦労する人が多いという。

 そこで顧客や協業相手に酒匂氏は『創造の方法学』(高根正昭著、講談社現代新書)を薦めている。「1979年に出版された本だが、書かれていることは基本の中の基本。それが問題解決やいわゆるデータドリブンビジネス、AI利用へと広がっている」(酒匂氏)。

 同書における創造の方法とは課題について原因と結果の因果関係を推測、これらを仮説とし、現場で具体的な証拠を探し出し、検証することである。仮説が妥当だと検証できればそれは理論になり現実の活動に適用できる。

 著者の高根氏は「知的創造」を「自由に抽象と経験の間の循環を行う」ことだとしている。抽象とは普遍的な原因や概念を見つけ、あるいは考え出して理論をつくること、経験とは現場で理論を実践し証拠を探すことである。

 知的創造の方法は「科学的」であるべきで、そう呼べるには原因という独立変数が結果という従属変数より先に変化する、独立変数の変化によって従属変数も変わる(共変)、従属変数に影響する他の変数が変わらないようにする(統制)、といった3条件を満たさなければならない。

 具体例として同書は実験的方法、統計的方法、比較例証法、逸脱事例分析法を挙げる。統計的方法とは多変量解析のことで40年以上前の本であるから高根氏はパンチカードを使って説明したが「これからはこのような方法がますます広く採用されることになる」と書いており実際その通りになった。

 ここまで読まれた方は「因果関係をとらえることがなぜ創造につながるのか」あるいは「仮説検証など当たり前の話」と思われたかもしれない。

 同書でいう創造とは「なにか新しい知識を既存の知識の体系につけ加えること」であり、その知識は仮説でも証拠でもよいが科学的な方法に沿っていないと他の人が利用できない。DXには論理的な問題解決思考ではなく創造的なアート思考が必要との意見を時折見聞きするが、後者から生まれた案が「科学的」でなければ効果は出ない。

 高根氏は「科学の基本原理に合致した広い意味での調査と研究を行う」「知的生産のための基本的なルールを常識として手に入れる必要がある」と主張した。日本人による「創造の方法」としてKJ法やNM法が1960年代から提唱されていたが高根氏は同書でTM法などを打ち出したわけではなく「基本的なルール」の解説に徹している。

 「仮説検証など当たり前の話」が書いてあるわけだが知っていても実行できないなら「常識として手に入れた」とは言えない。〇〇思考や××思考を学べば手に入るのかもしれないが、高根氏が期待したのは新思考法に飛びつく前に「知的生産のための基本的なルール」を常識として持つことだった。