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米マイクロソフトは顔から感情や性別を推測するAIの一般公開を見合わせる。同社がこのほど改定した「責任あるAI基準」にそって決断、ただちに行動した。企業経営者とIT専門家にとり「責任あるAI」を正しく学ぶことが急務だ。

 米マイクロソフトは2022年6月21日、人の顔を認識して感情や性別を推測するAIサービスの一般公開を見合わせると発表した。Azure Faceと呼ばれるサービスで「画像に含まれている人の顔の検出、認識、分析するAIアルゴリズムを提供」してきたが、このうち笑顔、性別、年齢などを推測する機能は今後一般公開しない。Faceの既存の利用者に対しても1年後の2023年6月30日をもって非公開にする。

 注意すべきは事前の利用申請がいらない一般公開を見合わせるものの、顔認識に基づく推測技術の開発や実用化は続けることだ。同社のサイトを見ると「責任あるAIの原則をサポートするためにFaceサービスの利用は適格性と使用基準に基づいて制限されています」と明記された。事前に申請してマイクロソフトから認められた企業であればFaceを利用できるわけだ。

 とはいえ技術開発の継続を考えると利用者からフィードバックを得られる一般公開を続けたいところだ。Faceを使ってサービスを提供している利用者に1年しか猶予を与えないのも異例である。苦渋の決断だが、あえて踏み切ったのは「今こうすることが消費者、開発者や利用顧客ひいては社会の保護になり、この技術を守り、発展させることになる」と考えたからだろう。

「責任あるAI基準」を大改訂

 Webサイトに書かれていた「責任あるAI」がマイクロソフトに決断を促した。同じ6月21日、「Responsible AI Standard, v2(責任あるAIの基準第2版)」を発表。2019年発表の「責任あるAIの原則」を改定、AIのあり方、持つべき倫理や社会性を定義し直した。第2版によるとAIを使う際には6つのゴールを目指さなければならない。

アカウンタビリティー:ガバナンスと倫理の観点でAIの設計・実装に関する情報を開示し、結果や決定についても説明、利害関係者に納得してもらう

透明性:AIシステムのプロセスや内容が誰にでもはっきり分かるようにする

公平性:AIや機械学習のモデルが不当な差別を引き起こさないようにバイアスを排除する

信頼性&安全性:予期しない状態が起きても安全に対処し、有害な操作を排除できる

プライバシー&セキュリティー:個人情報やビジネス情報を保護する

インクルーシブネス:一部の利用者を除外することなくすべての人にAIの利点がもたらされるように配慮する

 マイクロソフト以外にも大手IT各社は責任あるAIに関する指針やポリシーを示し行動している。各国の政府や公的機関もガイドラインを出した。

 顔認識は実用性が高く、今回の決定を「早まった」と見る向きもある。ただし技術開発や実用化は継続する。研究者・開発者というよりクラウド提供の責任者としての決定と言えよう。

 マイクロソフトは利用側の「責任あるAI」への正しい理解を育み、利用側が適切な行動をとれるようになるまで一定の時間が必要と判断したのではないか。「責任あるAI」を実現するには技術の提供側と利用側の足並みがそろうことが欠かせない。

 クラウドで提供されるAIであれば、それを自社のシステムに組み込んで使う利用側の倫理も問われる。「責任あるAIの基準第2版」を利用側も理解し、6つのゴールにどう向かうかを検討するまでの時間、関連するルールをもう一歩具体化させ、それらが安定してくるまでの時間がそれぞれ求められる。

 顔認識をはじめAIの可能性は大きく、社会問題の新たな解決策をAIで実装できる。マイクロソフトは顔認識を含むAIを障害者支援に応用するための開発を続けていくと表明している。制御されたシナリオにそって使えばAIは大いに役立つとの考えがある。