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視座をどこに置くかによって目指すシステムの姿は異なる。事業変革を狙うなら社会を展望した上でシステムを検討する。協業か開発委託か、それによって組む相手が決まる。

 「聖域なき改革」「イノベーション」「トランスフォーメーション」といった言葉を経営トップが使い、現場に取り組みを促した際、視座が重要になる。経営トップがどのような考えや方針を持っているかを知り、同じ視座から改革案や必要な情報システムを検討しないとうまくいかない。経営トップの意向が曖昧であり現場が視座を決め、関係者が同じ見方をしつつ改革を進める場合もある。

今はデジタル変革の第何章か

 視座を考える題材として銀行を取り上げる。銀行業には歴史があり既存の情報システムがあり業法もあるので、現状を踏まえて改革案を考えると例えば次のようになる。顧客接点を充実させるためにいわゆるフィンテック企業と提携し、組んだ相手のWebサービスと既存の勘定系システムを接続しつつ、勘定系の共同化やクラウド移行により維持コストを下げる。

 これは2020年6月16日に日本IBMが発表した金融業向けの「オープンソーシング戦略フレームワーク」と「デジタルサービスプラットフォーム(DSP)」について、銀行を主語にして説明し直したものだ。多くの銀行を顧客に持つ日本IBMは顧客の要望を踏まえ、先取りし、フレームワークとDSPを用意した。フレームワークは「フロントサービス」(フィンテックなど新サービス)と「コアビジネスサービス」(既存の基幹系)をDSPで接続する、という絵になっている。絵の中に出てくるデータは金融業が持つ。

 フレームワークは「フロントサービス」を「社会のデジタルシフト」がもたらしたものと位置づけている。この発表の際、山口明夫社長はデジタル変革の第1章は「部門」から始まっており、第2章が「企業」、その先が「社会」だと説明した。既存の企業が最前線(フロント)のデジタルサービスで社会につながり、それらが積み重なって社会が変わっていくという説明に聞こえた。

GAFAに相談をしたらどうなるか

 一方、別の視座もとれる。銀行が事業変革についてGAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コム)に相談したとしよう。アップルやグーグルはカード事業に取り組んでおり、アマゾンはEC(電子商取引)と絡めた貸し出しをしている。既にGAFAは巨大な商流と金流を持っており、そこに既存の銀行がどう関われるかという話になる。

 「将来の金融を考えると当社のこの事業とそちらのその業務を連携させると面白い」とGAFA側から提案があるかもしれないが銀行からすると特定の業務を切り出す、いわゆるアンバンドルを求められることになる。交渉次第だがデータを銀行が保有できるとは限らない。先々GAFAは銀行の競合に見える新事業を始めるかもしれない。

 プラットフォーマーと呼ばれるだけあってGAFAはデジタルデバイスなどITを提供するだけでなく、それらを内包した事業、そこに参加する消費者、利用されるデータを含めた一種の社会基盤を作り出している。フィンテック企業によってはこの社会基盤を利用し、既存の銀行が担っていた業務を請け負おうとする。2020年6月11日号の本欄で紹介した米ガリレオ・フィナンシャル・テクノロジーズはカードによる支払い・決済に関わる事務処理(バックオフィス)を引き受ける。

 このようにGAFAや一部のフィンテック企業はデジタル化された社会基盤を見据えており、その上で金融サービスをどうしていくかを考える。

 以上はあくまでも視座の違いであり、既存の銀行や米IBMなど既存のIT企業と、新興のフィンテック企業やGAFAとの優劣の話ではない。だが業務改善やコスト削減であれば自社内だけを見ていても進められるが、冒頭で述べた「聖域なき改革」「イノベーション」「トランスフォーメーション」を目指すのであれば社会を俯瞰(ふかん)してから自社の事業を再定義する視座が求められる。