ITと事業の一体化が進むにつれ、IT利用の対象領域が広がり、専門的になる。専門家が手作業でこなしてきた業務を処理するクラウドが登場している。典型例としてグローバル企業における給与システムの最新動向をみる。
デジタルという言葉を冠した新たなIT利用を進めるべきで、その対象は顧客接点や生産現場のような最前線だとする主張がある。一応もっともだが、それ以外の既存業務や基幹システムと呼ばれている領域はレガシーでありコストを下げる取り組みをすればそれでよい、と言うなら間違っている。
ITが事業と密着すればするほど、最前線も既存の業務も変化し、共に新たなIT利用の対象になる。その理由として前号で次の原理を紹介した。「インターネットやクラウド、モバイルデバイスが組み合わさった新たな基盤の上で事業は進化するが、結果として複雑性のリスクが生じる。この問題もITやITによる基盤で解決する」。
進化は2点ある。第1にITを適用する領域が広がる。より業務に密着し、事象の発生現場までITが浸透、人が担ってきた作業すべてが対象に入る。第2にIT利用やそれを受けた事業・業務の姿に企業ないし事業ごとの特徴や個性が色濃く出る。「こうしたい」という事業者の思いや顧客の要請をITで実現しやすくなり、ITと一体になる事業や業務は個性的になる。しかも事業環境に応じて変化していく。
経理も人事も進化が続く
進化に付いてまわるリスクに対処するためにも、専門性が高い知識と経験に基づく機能をITそして事業に盛り込む必要がある。こうした原理を受け、専門性の高い機能と知識を提供するクラウドサービスが登場している。
前回は決済に伴う消費税を処理するクラウドを紹介した。消費税の処理は専門性が高く複雑で厄介である。今回は「グローバルペイメント」に注目する。グローバル企業の給与支払いは国ごとに固有性があり複雑である。経理も人事も最も早く情報システムが使われた、いわゆる「レガシー」な業務だが、進化と高度化が続いている。
Papaya Global:イスラエルのパパイアグローバルは2016年の創業で採用、入社、給与支払い、人事管理などを担うクラウドを提供する。Payと呼ぶサービスを使うと、世界140カ国もの通貨と税制、労働基準や個人情報保護などの規制に順じて従業員に給与を支払い、記録できる。フルタイム、パートタイム、契約社員といった雇用形態ごとに支払える。
グローバル展開を狙う企業はPayを使えば一気に各国で給与を払えることになる。従来は各国で事業をしようとすると給与支払いを担当する専門人材の確保に時間がかかっていた。給与の支払いは国や地域の専門性が極めて高いためだ。すでにグローバル展開している企業は拠点ごとに専門の担当者を用意し、個別に処理してきた。
支払いに加えてパパイアはEOR(employers of record)と呼ぶ台帳の管理も請け負う。EORについても一貫した記録と管理の義務が雇用主に課せられており、パパイアが各国のEOR請負事業者へ委託してくれる。利用料金はPayが従業員1人当たり月額20ドル~100ドル、EORサービスを入れると770~1000ドルになる。一般の人事給与クラウドに比べてかなり高いが、国ごとの手作業を無くせることを織り込んだ値付けと言える。