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今はまだない「あるべき情報システム」をどのようにして設計するのか。決め手は直観によってもたらされる「創造的想像力」である。「もっと良くできないか」と考え抜く姿勢があれば理想像が見えてくる。

 「日本の将来の完成予想図を自分たちで描こう」。経済同友会代表幹事である櫻田謙悟SOMPOホールディングス グループCEO取締役代表執行役会長は2022年7月5日、山城経営研究所が創立50周年を記念して開催したシンポジウムでこう述べた。

 並行して経営者は自社の、情報システム責任者は自分たちのシステムの、「将来の完成予想図」を自ら描くべきだろう。デジタルトランスフォーメーション(DX)を語るのであれば、どこへ向かって変革するのか、あるべき姿が求められる。

 とはいえ描くのは難しい。現状の問題を認識できてもそれからすぐに将来像が見えるわけではない。馬車しか知らない人が「自動車に乗り換えたいからつくってほしい」と言えるだろうか。「要件をまとめていただければその通りにシステムを開発します」と言うIT企業はDXの相談相手にはなれない。

あるべきデータ構造をまず設計する

 「DXを目指すなら情報システムの骨格に当たる『あるべきデータ構造』をまず設計する。そこからあるべきUI(ユーザーインターフェース)と業務フローが出てくる」。NPO法人IT勉強宴会が2022年7月1日に開いた会合で渡辺幸三副理事長はこう発言した。新たなフローで業務を進めれば変革につながる。

 あるべきデータ構造(データモデル)を先に設計する理由は「UIや業務フローから設計し、それらを満たすデータ構造を後から決めようとしてもなかなか収束せず、いいシステムにならない」(渡辺副理事長)からである。そもそも骨格なのだから後から変えにくく先に設計したほうがよい。

 開発の生産性も高まる。「データモデルからUIやデータ処理のソフトウエアを自動生成するツールが実用になっておりシステムとして収束させられる。ツールを使ってソフトを用意しデータを入れて結果を見ればデータモデルを検証できる」(同)。

 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2022年3月に出した『データ経営が日本を変える!』と題した報告書もデータモデリングの大事を強調していた(6月2日号の本欄で紹介)。

 だが馬車の構造しか知らない人が「将来の完成予想図」としてまだ見ぬ自動車の構造を描けるのだろうか。渡辺副理事長は「創造的データ中心アプローチ」を提唱する。あるべきデータ構造はつくりだすものであり、現状の業務や情報システムを分析・整理するだけでは出てこない、という主張だ。

 創造の担い手は「顧客」(情報システムを使う企業の業務担当者あるいはシステム担当者)と「設計者」になる。渡辺副理事長は著書『システム開発・刷新のためのデータモデル大全』(日本実業出版社)の中で「顧客の思いと設計者の経験と知識」に基づいて、あるべきデータモデルが「いきなり模索」されると書いている。

 「こうならないか」といった顧客の「思い」を聞いた設計者が「経験と知識」から「こうではないか」とデータモデルを提示、顧客の意見を聞き、描き直したり別のモデルを用意したりする。こうしたやり取りから「チームによる創造」が起こる。

 手島歩三ビジネス情報システム・アーキテクト代表は複数の部門の業務担当者が集まり、自社の「もの(製品や設備など)」と「こと(ビジネス活動)」がどうなっているかをデータモデルとして描くやり方を勧め、支援してきた。狙いは「もの」と「こと」のあるべきつながりに業務担当者が自ら気付き、改革の構想を得ることにある。既存システムの画面や帳票からデータ項目を拾ってモデルにするやり方ではない。