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伝統を保持しつつITを駆使、Z世代(デジタルネーティブ)が好む企業になる。創業100年のグッチは変革を進め、年商の6割を35歳未満の客から得る。その取り組みはデジタル変革の成功例として多くの企業に通じる示唆に富む。

 2021年に11歳から25歳を迎えるZ世代はモバイルデバイスとインターネットを当たり前のものとして使い、自ら調べ、買い、情報を発信する。デジタルネーティブ世代ともソーシャルメディアネーティブ世代とも呼ばれる。将来を担うZ世代に支持してもらうことはあらゆる企業の課題である。

 デジタルトランスフォーメーションを「既存の強みや経営資源を生かしつつITを駆使して事業を再設計し、変えること」と定義するなら、Z世代への働きかけは強力な動機になる。Z世代はITがもたらした新たな社会基盤の上で活動する。やり取りするために企業は同じ社会基盤に上がって事業を作り変えなければならない。

 典型例としてイタリアで1921年に創業した高級ブランド、グッチ(現在は仏ケリング傘下)の取り組みを見よう。創業一族の内紛と不祥事によって一族が去って以降、グッチは長く低迷していた。だが2015年にアクセンチュア出身のマルコ・ビッザーリ氏が最高経営責任者(CEO)に就任してから成長軌道に乗り、5年間で年商は3倍になった。

 100周年のブランドを再生できたのはZ世代を中心とする若手の支持を得たからだ。ビッザーリCEOによれば年商の6割はZ世代を含む35歳未満の消費者から来ている(Z世代が両親などに頼み、買ってもらう場合も含む)。

 Z世代を狙ってブランドを常に磨き、変えるべき点は変え、トランスフォーメーションを遂げた。ビッザーリCEOはクリエイティブディレクターとしてアレッサンドロ・ミケーレ氏を社内から抜てき、商品開発をはじめ創造に関わる一切の活動を任せた。

 ミケーレ氏は伝統と品質にこだわり現代に受け入れられるものをつくるというブランドポリシーを守りつつ、独自の色合いやコラボレーションによる新たな感触を取り入れ若手の支持を獲得していった。グッチアートラボと呼ぶ工場を開設、職人が最先端の機械を利用し、昔ながらの技と組み合わせて商品を手作業でつくる試みも始めた。

 コラボレーションにおいてはバスケットボールリーグやディズニーなど高級ブランドの提携先として従来なかった相手と組んでいる。アバター開発の米ジーニーズと組み、アプリで3次元アバターを作れるようにし関連アイテムを売り出した。

自然体で最新のITを利用

 並行してビッザーリCEOは電子商取引からプロモーション、商品開発、店内の販売員向け音声アシスタントまで、ほぼ全領域にITを適用した。サプライチェーン改革などにより「短期間で生産能力を3倍にできた」と同氏は述べる。一連のIT利用もZ世代を見据えたものだ。ビッザーリCEOはZ世代を「直ちに満足を求める」と評し、シームレスなショッピング体験をITで実現、商品選択から発注、納品に至る時間を短縮した。

 例えばグッチのオンラインショップは商品の魅力が目に飛び込む美しいページを用意し、使いやすく買い物を楽しめる作りになっている。商品に興味を持ち、購入を検討する人はスムーズに無駄なく買い物を進められる。

 満足できる利用体験を提供するために最先端の機能をさりげなく入れている。自宅試着サービス、スタッフと話せるビデオ通話(スタッフから消費者は見えない)、ビデオチャットによる実店舗の商品案内、2週間以内の返品・交換(送料はグッチ負担)などだ。

 新作の発表や広告、商品開発といった最前線ではデジタル技術を使った表現を多用する。新型コロナウイルスの問題で外出制限が始まって以降、12時間に及ぶライブストリーミングによる新作披露、モデルが自分の居心地のいい場所で撮影したセルフポートレートおよび動画を使った広告キャンペーンをそれぞれ実施し、話題になった。

 サステナビリティー(持続可能性)の取り組みにも熱心でリサイクル素材を使ったコレクションを発表したほか、12時間のストリーミングに伴う二酸化炭素排出量を第三者に測定させ、報告。社会課題に立ち向かうブランドとしてグッチの名前はしばしば上がり、これもZ世代の支持につながる。